書類


 
滑らかに文字が記入された手書きの書類
もう長い時間、目の前に置いた書類を見つめたまま
数枚の紙からなる1部の書類は、記入箇所の殆どが埋められていて
残す箇所はほんの僅か
本当なら一番始めに埋まる筈の場所は、書きかけのまま既に数日間おかれたままになっていた

送られてきた書類の多さと、記入箇所の多さ、そして提出書類の多さにうんざりしたのは先日の事
いやになる程の説明書きを読んで、提出書類を請求して、頼んだモノが届いた後に記入を始めた
慎重に1語1語書き写して
最後に楽な箇所が残ったはずだった
実際、途中までは何の躊躇いも無く記入することが出来た
……そのまま書いてしまえば良かった
そんな後悔が思い浮かぶ
あの時ふと手を止めたのが失敗
脳裏を掠めた言葉に気を取られたのが間違い
お陰でそれからそのまま作業は停滞している
ため息と共に目の前の書類を睨み付ける
長い時間が無駄になった
ため息と共に置いてあったペンを取り上げる
いつも通り
そもそも提出書類と違うモノが書き込まれていたら、可笑しい筈だ
軽く頭を振り、考えを切り替える
いつもよりも時間の掛かった初めの1文字
そこで再び手が止まる
次の文字が決まらない
文字を書きかける手が何度も、宙を彷徨う
幾度か同じ動作を繰り返して、いらだったようにペンを投げ出した
なんで、こんなくだらない事で悩まないとならないんだ
苛立ちを感じながら、書類をそのままにベッドへと転がり込む
ここ数日繰り返した行動を今日も繰り返し、眠りについた

―――提出期限まで後5日
 

コツコツとペンで机を叩く音が響いている
考えても思い付かない問題を先送りにして、取りかかっているのは別の問題
似たような位置にある、似たような記入欄
始めに思い浮かんだ無意識のソレを否定して
それから大分後で浮かんだソレはしっくりと来ない
何か、ないか?
思い浮かばないまま時間が過ぎる
長い間思い悩んで……
………………………………
そして、考える事を放棄した
空欄は空欄のままに、書き上がらないところはそのままで、必要な書類をまとめ
それから白い紙に文字を殴り書き、封筒の中へ入れ
表書きに赤字で「緊急」の1文字を添え、封筒を抱えて不機嫌そうに部屋を出た

―――提出期限まで後4日
 

そして、提出期限まで後2日
書類を手に困り果てていた
「……なぁ、これどうすれば良いと思う?」
緊急の文字に開いた封書の中には幾つかの書類
それと素っ気ない1文のみのメッセージ
首をひねりながら書類を確かめ………
「さて、私に聞かれても困るな」
「そりゃ、まあそうだろうけどよ……」
ラグナは、改めて書類に目を落とす
几帳面に書き連ねられた文字
不自然に空いた空欄
……少しは期待しても良いのか?
穏やかな気持ちと共に、ラグナはペンを握りしめた

送られてきた書類は、保護者欄が空白のまま
書きかけた氏名欄には「L」に続き名字が無かった
 

 End