待機


 
魔女――
『大使として魔女を派遣する』
その言葉が脳裏に渦を巻いた
魔女、その言葉に良いイメージを抱く者はきっといない
「平和の使者、だと?」
魔女の中にも平和にひっそりと生活を送っている者も存在する
そんな事は分かっている
けれど、ガルバディア大統領の様子からして平和を望む善良な魔女だとは思えない
脳裏にかつての悪夢が蘇る
大統領へ報告しなければ……
彼は、顔を強張らせ、荷物をまとめ始めた

破壊される音と同時に、画像が消える
砂嵐の流れる画面から、雑音に混じって声が聞こえる
「スコールくん……」
キロスに促され、スコールは、受信機を差し出す
「……………」
争う声、物音が聞こえ
一瞬静寂が訪れたその時
「俺たちの背後にはガーデンがついてるんだっ」
悲鳴じみた叫び声が聞こえ
怒号と罵声が響いた

ティンバーの町並みを見下ろす小高い丘の上
レンタカーの中から、スコールはティンバーの様子を探っていた
「彼等は出てきたかな?」
地図を眺めながらキロスが問いかける
「……まだです」
彼等の様子をうかがう事はもう出来ない
だが、ガルバディア大統領もティンバーを後にした今、彼等もまた危険を冒してティンバーに留まっている必要は無い
駅はガルバディア兵士の手によって、厳重に固められていた
そうなれば、彼等が街の外へ脱出を計るルートも限られてくる
そして、数少ない脱出の為のルートもスコール達の手によってさらに狭められている
………もしかしたら、脱出する手段をみつけられないのかもしれない
なかなか姿を現さない彼等の様子に不安がよぎる
「それは大丈夫だろう」
気づかないうちに不安を声に出していたのだろうか?
隣からキロスが返事をよこす
「それに、私としては、脱出しやすいルートを残して来たつもりだ」
確かに、その通りかもしれないけれど……
普通はあまり脱出の手段として選ばないルートなんじゃないだろうか?
スコールは、大通りへと続く、ティンバーの大門を見つめ、心の中でそっとため息をついた

「脱出した方がよさそうだな、これは」
街の其処此処で、争う声が聞こえる
「………いいか、匿うような事があればーー」
家の扉を叩き、無理矢理中へと進入する兵士の姿
それに抵抗を示す人々の様子を横目で見ながら、スコール達は、荷物をまとめる為ホテルへと急いでた
自分達の正体がばれとは思わない、けれど危険は無いに越した事はない
それに、下手に兵士に捕まるのも時間を無駄にする
彼等に仕掛けた機械は先ほどの衝撃で壊れてしまったらしく、何しているのか知る事は出来ないけれど、捕まる訳には行かない彼等は、一刻も早くこの状況を脱しようと行動を起こす筈だ
与えられた任務を実行する為には、自分達もまた、早急にティンバーから離れる必要がある
それも、彼等よりも早く、だ
キロスの巧みな誘導に従い、兵士に出くわす事も無く順調に路地裏を移動する
だが、
「待て!」
ホテルへと到着したその場所で、一人の兵士に引き止められた

スコールの視界の中、騒然と人々が動くのが見えた
「………来たっ」
僅か数人の兵士を倒し、街の外へと走る彼等の姿
「言ったとおりじゃないかな?」
あり得ないと思っている場所からの脱出が一番不意をつく事が出来る
そして、それ以外のルートの警備が強化されているとしたら?
彼等の立場からすれば、多少の危険を冒したところで、より確実な道を選ぶ
そういった心理を働かせる為にキロスはガルバディア兵士に巧みにアドバイスをし、警備を動かした
「持つべきモノは友といったところか」
それも、あの時声を掛けたガルバディア兵士がキロスのかつての友人だったが為に出来た事
兵士達の警備に対する提案をすんなり受け入れ
『デリングシティへ行くつもりだったんだが、出発は難しそうだな』
と零した言葉に、快く車を提供してくれた
「いや、どちらかというと、ラグナ君のおかげといったところか」
キロスは小声で呟くと笑みを浮かべ、車を稼働させた
追われている彼等にとって、車を使う事ができるというのは、きっと魅力的に映るだろう
だが、この車は
―――ガルバディア軍の軍用車
「警戒されませんか?」
「その辺りの事は考えてある」
こちらに気がつき、武器を構えた彼等の目の前に、車を滑り込ませた
 

 To be continued
 
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