残心


 
軍用車が一台、ティンバーを離れていく
「………いいんですか?」
民間人に独断で軍用車を渡す様な真似をしてただで済むとは思えず、彼は上官をそっと伺い見た
「後で引き取りに行けば問題ないだろう」
めんどくさそうに、呟くと足早に立ち去っていった
「………誰が取りに行くんです……」
彼の言葉は上官の耳には届かず、周囲にした仲間達は彼の声にそっと目をそらした

懐かしい友人を乗せた車が、今現在手配中の者達を乗せティンバーを遠ざかっていく
このささやかな取引が上層部にばれれば、自分はただでは済まない
……そんな事は重々承知している
こちらを伺う様に見ている彼等には申し訳ないのかも知れないが、全て承知の上での行動だ
若い者には魔女の恐怖などと言っても判らないだろう
同様に、安全な場所に身を置き、実際に魔女と相対する事の無かった幸運な者達にも
確かに彼は古い、忘れられない友人の一人だ
『久しぶりだな』
昔と変わらぬ調子で声を掛けられ懐かしく思わなかったと言えばそれは嘘だ
だが、懐かしさから手を貸した訳ではない
そして“借りがある”からという訳でもない
確かに借りはある、彼にも、彼等にも
だが……
大統領のあの言葉
そして、タイミング良く現れた友人
『ちょっと頼みたい事があるけど良いか?」
からかうように“彼”を真似た態度が、昔と重なった
“魔女”と“頼み事”
からかうような口調の裏に隠れた真剣な目が、決断させた
こんな事を言っても結局は、“私情”になるのだろうか
だが、魔女と手を組むという大統領の判断は私には理解する事は出来ない
過去の情景が頭から離れない
時折見受けられた、何かに憑かれた様なエスタ兵の表情も……
『全ての魔女が危険な訳ではない』
確かにその通りなのだろう
だが……………
『あの時から、何も終わってはいない』
帰り際、彼が囁いた言葉が気に掛かる
彼は、彼等は大丈夫だろうか
まるでこれから悪い事でも起きるかのような、そんな予感がした

闘いの最中、その小さな音を聞きつけたのは、さすがの俺でも奇跡じゃねえかと思う
背後から微かに聞こえた金属音
キスティスが車から降りて来た、そう思った
確かに状況は不利だったが、別にピンチって訳でもねえ
当然『ひっこんでろ』と、いうつもりで振り返った視線の先に
一丁のマシンガンを手にした、ガキ―――スコールの姿が見えた
「何しに来やがった!」
俺が怒鳴りつけたのとほぼ同時に、手慣れた仕草で腕が上がった
上空へと向けられた銃口
その辺に居る、気弱なガキといった雰囲気が一変する
……こいつ
流れる様な――どこか見覚えのある動き
「うわっ」
ゼルの声をバックに、軽快な音が辺りに響いた
 

 To be continued
 
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