命令


 
気に入らない学園長から呼び出しを受けたのは“魔女”の事が頻繁に噂されるようになったある日
学園に珍しい客が立て続けに訪れた日の事だった
僕はいつもの様に級友達の心配を軽口で交わしながらも、重い足取りで学園長室へと向かった
呼び出されるのは、慣れている
けれど、あの学園長の話を聞かされるのはいつまで経ったって慣れない
ガルバディアガーデンの校風にあわない僕の行動が、学園長始め多くの教官達にあまり良く無い印象を与えていた事は判っていたから
きっと、今よりも射撃の腕が悪ければ有無を言わさず追い出されている
いつもの様に嫌みを言われるんだろう
後にして思えば、気楽で、単純に考えていた

バラムガーデンと違い、100%に近い出資をガルバディア軍から受けてるこの学園は、軍へ進む為の予備期間の様なモノ
何れ卒業と共にガルバディア軍に入って、優秀な戦闘員として、各地に送られる事になる
そんな事は他国にまで知れ渡っている周知の事実
ガルバディアガーデンの生徒だと言えば、誰もが軍人になるモノだと勝手に理解してくれまでする
そんな所である事は理解しているつもりだった
けれど、ごく少数ではあるが軍関係以外の道へと進む者もいるし
なによりも……
学生の間にホンモノの戦いに駆り出される事があるなんて、思っても居なかった
だから僕は、学園長が何を言ったのか咄嗟に理解出来なかった
“魔女の暗殺”
数秒、もしかしたら数分の間の沈黙の末、僕の口から出たのは現実からかけ離れた言葉だった
『一人でやれって言うんですか?』
冷静な覚めた声
意外そうな顔をして、楽しげに顔を歪める
『心配しなくても要員は準備している』
僕と関係の無い所で誰かが話している
そして断る事も出来ずに、生まれて初めての仕事が任された

僕に出された暗殺命令
学園長は
『これ以上無い優秀なサポートをつけてやる』
などと言っていたけれど
そんな言葉を信用する程単純でもお気楽でもない
“魔女”の噂は事は耳にしている
もちろん聞いた話の全てが真実だなんて、僕だって思っちゃいない
手の震えが止まらない
足だって、自分が歩いている事が不思議な位に震えてる
―――気に入らないけれど優秀な生徒
「これ以上無い位、素敵な利用方法だよ」
皮肉気な筈の声が虚ろに響いた
『ゲート前にて待っていなさい』
退出間際に言われた言葉を思い出す
……このまま逃げ出してしまおうか?
脳裏に言葉が浮かぶと同時に、足が草を踏む感触を伝え来た
 
 
 

 To be continued
 
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