魔女の城10



 
「うわっまずっ」
一気に煽った瓶の中身は、薬品の味がした
下手に甘ったるい味がするよりはこういった味の方が効果はある様に感じられる。
実際にすでに身体が軽くなったような気さえする
錯覚かも知れないが………
中身を一口飲んだセルフィの言葉にサイファー達は微妙な顔つきで瓶を見つめているし、スコールと同じように中身を煽ったゼルは………大げさに苦しんでいる
スコールはと言えば片手で口元を押さえながら、もう片方の手で荷物の中を必死で探る
たぶん成分的には何の問題も無い。
確実に身体に益にはなっても毒にはならない
理性ではソレが解っていても、感覚的にとんでもない毒を飲んだ感じがする
手持ちの荷物の中の、何か口直しが出来る物
荷物の中をかき混ぜる手が、様々な物にふれる
「水くれ、水っ」
騒ぎたてるゼルの声と、慌しく動く誰かの気配を何となく感じる
この際何でも良い
引き出した手の中に握られていたのは解毒薬
「あ、スコールも………」
味はまとも、解毒薬だが、毒が体内に無ければただの味の付いた水と同じだ
水を手にしたアーヴァインがスコールを振り返るのとほぼ同時に、スコールは手にしていた解毒薬を飲み干していた

「こう言ったら悪いんだけどさ、エスタって変な国だよね」
「………エスタがじゃなく、一部に変なのが居るんだ」
少し離れた位置ではサイファー達が魔女の元へと続いていると思われる扉を調べている
「………まぁ、薬の効果は確かに出た気がするけどよ」
スコールを含め、ゼル、セルフィの3人はとりあえず休んでいる様に言われた
スコールにも身体の疲労が軽減されている感覚はあるが、精神的な疲労が倍増している実感がある
こういった状況では細かい注意力が必要な作業にはむかない事は解ってる
ここに居る3人以外は例の薬を口にするのは辞退し、代わりに効能は劣るが過去の実績がある回復薬をセルフィが試し飲みした後に服用している
「今のままじゃ、効果はあっても使い物にはならないからねぇ」
戦闘の最中に口にする様な事があったら、確実に負けるな
スコールはため息と共に、整理していた荷物の奥底に薬をしまい込む
「便利なアイテムではあるんだけどな」
荷物をのぞき込んでゼルが手を伸ばして錠剤を取り上げる
「………こういうのなら使えるんじゃないか?」
ラベルには“止血剤”の文字が記入されていた

G.F.の業火に焼かれ、扉を塞いでいたモンスターの姿は消えた
“魔女”へと続くはずの扉は静まり返ったまま閉ざされている
「………開けるぜ」
扉に手をかけたゼルの声が緊張に震えている
「おう、いつでも良いぜ」
ゼルの手の中のドアノブが幽かな音を立てる
誰かが息を飲む音が聞こえる
細く開いた扉の向こうから暗い光が漏れ出る
勢いをつけて開いた扉が壁に当たり音を立てる
身体を滑り込ませた部屋の中で、人影がゆっくりと振り返る
ぼんやりと浮かび上がる、長い黒髪の女性
あれが“魔女”―――
広い部屋の中、奥まった位置に設えられた玉座の上で、アルティミシアが憎悪に満ちた視線を向ける
甲高い声が響く
ずきずきと耳を打つ憎しみの言葉
「何故私の邪魔をするっ」
悲鳴のような声を上げて、アルティミシアがスコール達の元へと近づいてきた
 

 To be continued


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