英雄とテロリスト
(掌握)


 
恐怖におびえる者達の顔
あっけない程簡単にこのホテルを制圧する事に成功した
「騒ぐな!」
うるさい者達を恫喝し銃口を向けると、自分たちの立場を悟ったのかすぐにおとなしくなる
「この建物は我々が占拠した、命が惜しいと思うならば、おとなしくしていろ」
面白みのない言葉だが、今はまだいい
我々の力を思い知るのはこれからの事だ
まずは、外に集まった愚かな者達に警告をしなければならない
通信機から、階下に残った同志の声が聞こえる
建物の完全封鎖の完了
着実に進む作戦に満足し、彼は人々へ、自分達の理想を語り始めた
「今の政府のやり方では、我が国が他の愚かな国々と同一の存在になる
 どこよりも優秀であるべき我が国を堕落させる今の役人達を断じて許すことはできない
 よって彼等は、より我が国の事を理解している我々の同志にその権利を速やかに渡すべきである」
彼は、人々の視線を受け、よりいっそう、演説に力を込める
「我々は、我々の国の為に、我々の権利を主張する
 我々は、この我々の正当な権利が認められない場合、武力による主張も仕方ない事と判断した」
彼は人々を悠然と見渡す
誰一人口をはさむ事なく、彼の言葉を聞いている
通信機から、微かな雑音が聞こえた
何事だ?
通信機に向け意識を集中すると、雑音は消え、変化なく同志が動いている気配を伝えてくる
気のせいか?
彼は気を取り直し、人々へと意識を戻した

様子がおかしい
彼等は、通信機を通し、異常を感じ取っていた
入るはずの連絡がはいらない
聞こえるはずの声が聞こえない
通信機を通し、気配を感じることはできる
だが…………
3人は言い知れぬ不安を感じていた
通信機の呼び出しに答える者が少ない
時間が経過する程にその人数を減らしていく
彼は交渉の為に、外へと出た
「建物の中に一人でも足を踏み入れれば、人質の命はないと思え」
すでに潜入しているとしても、人質は手元にいる、愚かな話だが、他国の人間がいる中で、人質の命の危険を侵してまで手出しをすることはできまい
『もちろんだ、だが………』
なおも続けようとする言葉を彼は遮る
「いいか、我々は、建物に爆弾を仕掛けた、妙な事を企むならば、今すぐ建物を吹き飛ばすぞ」
強く言い置き、一方的に交渉をうち切る
人々の命が惜しいならば、下手な手出しはできまい
警告を無視するのであれば、そのときは………
彼は暗い決意を抱いた

同志の半数以上と連絡がとれない
彼等は必死で、連絡を試みる
連絡のとれた者は警告を
だが…………その警告は、すべて無駄に終わっていく
人質達を前に動揺した姿を見せるわけにはいかない
彼等は、力の弱い者を彼等の保身の為に人質とした
 
 

 
 
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