英雄とテロリスト
(鎮圧 SideL)


 
追いつめられているみたいだな……
この場所に集まった多数の人質の中から、更に自分の手元に人質を確保したことがその証拠
テロリストを前にして、ラグナは機会を伺っていた
まずは、あの人質をどうにかしないとな
いざというときに、救い出す事が出来ないようでは困る
どうせならば、人質自らが機会を伺い行動を起こす事ができれば良いのだが……
一般人にそれを求めるのは酷だよな……
みるからに、気の弱そうな初老の男性との人質の交換には応じてくれないだろう
……キロス達がいれば楽だったんだけどな
スコールと二人でこの状況を打破することができない訳ではない
………もう少し人手が欲しいな
安全性を確保する為にも、もっと戦力が欲しい
うん?
テロリスト達の様子がおかしい
持久戦に持ち込まれ、精神的に追いつめられていると思っていたが
……これは違うみたいだな
彼等の間に流れる緊迫した雰囲気
絶え間なく通信機を操作する様子……
仕掛けたか?
「動くなっ!」
犯人の怒声が響く
「こいつの命がどうなっても良いのか?」
人質に銃身を強く突きつける
テロリストの引きつった表情
……キロス達だな
テロリスト達が立てこもって、結構な時間が経過している
行動を起こしていたとしてもおかしくない
後は機会を待つだけだ
その機会も程なく訪れるだろう
どんな手段を、どんな作戦をとるつもりかは解らないが……
合図を見落とさないようにしないと、な
テロリスト達の緊迫した雰囲気が、辺りに伝染していく
限界まで張りつめた空気
テロリストが何かを叫ぼうとしたその時
“ドォーン!”
階下から、強い振動と共に、何かが爆発したような音が響く
テロリスト達が一瞬気を取られる
そのわずかな瞬間、捕らわれた人質へ向かいラグナは動いた
灯りが消える
ナイスタイミング!
!!
声も立てずにテロリストがくずれ落ちる
人質の腕をとり、人々の方へと強く押し出す
取り落としかけた銃を空中で受け止め……
ほんのわずかな停電が終わり、灯りが灯る
銃声が響いた
あちこちで響く悲鳴
重なり合う、二つの銃声

テロリストが一人逃げ出していく
「スコール!」
追いかけろ、と続けるはずだった言葉は、言うよりも早く、追って出たスコールの姿に中途半端に止まる
「そいつを取り押さえろ」
スコールが気絶させたやつを飛び出した男達があわてて取り押さえる
取り押さえた男が逃げ出そうとして、もがく
ラグナが首筋に一撃を放つと、ぐったりと動かなくなった
「警察に連絡を頼む」
ラグナの言葉を聞き終わらない内に、あわてて連絡をする様子があちこちで繰り広げられた
気絶したテロリストを、一カ所に集める
「後の事はまかせた」
ラグナは、視線を走らせ、テロリストが置いていったライフルを手に取り走り出した
上か、それとも、下か?
階段の前でほんの一瞬立ち止まり、上へと階段を上る
爆発がおこったのは、階下
それに、建物の周囲には、人が集まっている
逃げ出したとしても、逃げ道がないことは解るはずだ
逃げ道に多少苦労するかもしれないが、逃げられない訳じゃないしな
それに、もし階下に逃げたのだとしても、キロス達がいる
屋上から、銃声が聞こえた
当りみたいだな
屋上へと、ラグナは足を踏み入れた
 
 
 
 

 
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