英雄とテロリスト
(決着 SideS)


 
"ぐしゃ"といういやな音を立てて、男がすぐ側に落下してきた
スコールは、男の状態を確認する為に側へと近寄る
ラグナが撃った弾丸は綺麗に貫通している
血が流れているが、これ位ならたいして跡も残る事無く完治する
折れたな
目に見えて解るのは、不自然に折れ曲がった左腕
音からすれば、内蔵に損傷がでていてもおかしくない
スコールは、男の側へ屈み込み呼吸を確かめる
気絶しているだけ、か?
手をかざし確かめるまでもなく、つく息が荒い
意識は………
スコールの手が、男の体に僅かにふれる
とたんに上がる悲鳴
気絶していた訳じゃなかったのか?
苦痛に顔を歪め、必死で痛みに耐えている
「なんだ、無理矢理起こしたのか?」
聞こえたラグナの声に、スコールはむっとして、顔を上げた
誰が!
意識を取り戻せばうるさいだけの相手をわざわざ起こすはずがない
男は脂汗を浮かべ低くうめき声をあげている
数メートルの高さとはいえ、受け身も取ることかできず、それなりの覚悟もなく、堅い地面の上にたたきつけられた
重体かもしれない
「スコール、あんまりいじめるなよ?」
からかいを含んだラグナの声
「………別に何もしていない」
全く本気ではない事は解っているが、不愉快な気分になる
うめき声
微かな微笑みを浮かべてラグナが男の顔をのぞき込んだ
相手を見分けるだけの気力があったのか、男は、ラグナに対して、殺意の籠もった視線を向ける
鋭く、銃身が男の体の上に落ちる
「う゛っ」
うめき声と共に、男が再び気絶する
「………いいのか?」
気絶させてしまって、よかったのか?
気絶してしまえばうるさくはなくなる、だが……
「いつまでも相手にしているわけにはいかないからな」
そういうと、ラグナは、男をそのままに背をむけ歩き出した
「さすがに政治問題に他国の人間が関与する訳にはいかない」
気絶した男に視線を向け、スコールもまた立ち上がる
ラグナには、関係の無い国
口出しをすれば政治介入、か……
……ラグナは、すでに手を出している
「今の状況だって大差ない……」
建物を占拠していたテロリストを倒したことは、さまざな人間が見ている
この問題に関わっている
「巻き込まれた結果と、事を起こしに行くのでは全く違うさ」
……おとなしく待っている事もできたはずだ
「念をいれるなら、人がこない内にいなくなるのが一番かもしれないけどなぁ?」
「顔を見られてる」
ラグナが関わっている事を証言する人は数多くいる
「ま、ようは穏便にすませば良いんだよ」
穏便?
ラグナが関わった出来事で、何事もなく穏便に話が進んだ事が一度でもあったか?
ラグナが関われば、関わった分、騒ぎが大きくなっている
…………不必要に騒ぎを広げているはずだ
考えに沈んでいたせいで、スコールは、気配に気づくのが遅れた
何人もの人の足音、騒々しい声
終わったということか……
スコールも、ラグナと同じく、この件に関しては部外者だ、ラグナと違うのは、テロリストの殲滅という、仕事が舞い込む可能性が僅かにあるだけ
スコールは、適切な説明を考えながら、人々の方へと向かった
 
 
 
 
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