英雄と遺産
(依頼)
鋭利な刃物ですっぱり切り取られた跡
切り取られるはずのない船底が、綺麗な断面を見せている
これが地上にある金属を断ち切ったというのならば納得出来ない事もなかったかもしれない
だが、これが行われたのは、海中
「面倒な事になったな……」
十中八九潜水艇の仕業だろう
だが、それが誰の仕業なのか検討がつかない、いや、つかなかったと言うべきだろうか?
ラグナは、送られてきた映像に目を凝らした
水中でこれだけ鮮やかに金属を切断できる物質の存在をラグナは知らない
「どっかの馬鹿が、実験してる………なんてことはないよな?」
ラグナの言葉に、周囲に集った人々の首が一斉に横に振られる
断面がもう少し荒いものだったり、明らかに魚雷を使った物だったならば、他国の軍船だという可能性も残っていた
だが………
「近くにセントラの遺跡はあったか?」
ここまで高度な技術となるとそれ以外は考えられない
彼等は、お互いに顔を見合わせる
………知らないってことか……
ラグナは、天井を見上げた
まぁ、相手は海賊って事にしとくとして……
とりあえずどこにいるかは押さえないとな
「とりあえず、潜水艇が出入り出来る場所の探索だな」
ラグナの言葉を受け、秘書の1人が伝達の為に走っていく
「それと、SeeDの派遣要請………」
そこまで口にしたラグナは、キロスが手招きしている事に気づいた
うん?
端末が指し示される
…………用意の良いことで………
ラグナは、交渉の為に席を移動した
「なるほど、正体不明の潜水艇ですか……」
シドはSeeD派遣の要請内容を聞いていた
海賊らしき相手の本拠地の特定、そして、海賊の殲滅
それは依頼としては申し分がない
その上、依頼相手としても、裏がないか調べる必要がなく、信頼できる点では申し分がない
だが………
「ですが、サイファー君はSeeDではないのですがね……」
問題となるのは、ここ
『以前の海底探査で、辺りの地形の様子を知っているはずのサイファー君に是非参加して欲しい』
ラグナの依頼の中には、サイファーを一緒に派遣するというものが含まれている
理屈としては合ってるのかもしれませんが………
規則にも反しますし……
「なら、SeeDにしちまえば良いんじゃないか?」
画面の向こうであっさりとラグナが言う
……は?
「SeeD試験、受ければ為れるんだろ?」
それは確かにその通りですが………
「いえ、今年の試験は終わりましたし……」
……彼は、その試験に落ちたんですけどね……
「特例って訳にはいかないか?」
まっすぐな眼が射るように見つめてくる
特例……
確かに、彼はSeeDに成っていてもおかしくないのですが……
そうですね……、彼も今後の事を考えれば正式にSeeDに成った方が動きやすい事でしょうし
元魔女の騎士とSeeDでは、受ける印象が違ってくる
「わかりました、ではSeeD試験を行いましょう」
シドは、含みのある笑顔をラグナへと向けた
「うん?」
シドの様子に気づいたのか、ラグナは鈍い返事を返す
「SeeDになる為の試験ですから、そのなりの難易度が必要です」
シドは自分の思いつきに満足しながら、話を進める
「それは確かにそうかもしれないな……」
都合の良い事にラグナは納得している
「ですから、あなたからの依頼をそのままSeeD試験にさせて貰います」
穏やかにシドは宣言した
ラグナが唖然としてこちらを見ている
しばらくの間
「……わりぃけど、試験官とか、指導者とか受け入れられないぜ?」
その言葉にシドは笑顔で頷く
元々依頼の条件の中に、その場その場の判断はエスタ側が取るというのは入っていた
「ええ、ですから、試験官はあなたにお任せします」
シドの言葉に、ラグナは、ほんの数瞬考えるだけの間を置き
「そりゃ、面白そうだな」
楽しげな笑顔で、承諾した
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