英雄と夢想家
(終演)
G.F.の助力により、機械の爆発による被害はほぼ無かった
彼により威力が押さえられなければ洞窟の大半の地域は、崩れ落ちた筈だ、というのは学者の意見だ
ラグナに言わせれば
その辺の事も計算に入れていただろう
ということになるが、
彼が何も考えていなかったなどとは絶対に言わないだろう今となっては、実際のところがどうなのかは永遠に判らないままだろうと思われる
結果的に、彼女達……
……彼等と言うべきか?
彼等の本拠地であった洞窟は跡形もなく消え去り
あの組織――彼等の言葉を借りるならばセントラの民と言うことになる――に所属していた者は1人残らず確保する事に成功した
…………ただ1人、例の彼女のみを除いて
ラグナの目の前で土砂の中に姿を消したと言う彼女の行方は現在捜索中だ
今日もまた報告書が読み上げられる
“セントラの民”に対する取り調べはエスタとバラムガーデンの首脳陣によって極秘に行われている
むろん、世界にむけ、世間を騒がした彼等が捕まった事は報じられているが、彼等があれほどまでに危険な武器を有し、それを実際に使おうとしていた事は伏せられている
「大多数は、ごく普通の人間って事か?」
理想を抱き、それに向かって前進しようとした何も知らされていない者達
「さて、どこまで“何も知らなかった”のかはまだ計りかねるが……」
おそらく本当の意味で何も知らなかった人間は居ないのではないかと思われる
すくなくとも、多少強引な手段を取ることになってもセントラを復活させようという意識は持っていた訳だからな
「まぁ、復活を願っていただけじゃ罪にはなんねーけどな」
窓の外へ視線を移し
「けど、こういう事に参加していた事自体が罪になるんだよな」
続けられる呟き
「そちらの人達の事は、置いておくとしても、こっちは確実に罪人だろう」
キロスは、スコールが身柄を確保してきた男の資料を机の上に放った
「お前達、この俺に触れることが許されるとでも思っているのか?」
静かな声が、同じ言葉を繰り返す
男の血走った目
何度も繰り返される言葉
理知的に、理論を使用し納得させよう、言いくるめようとしていた男の言動が崩れていく
次第に剥がれ落ちていった冷静な仮面
あの巨大兵器を無造作に稼働させようとしたこの男こそ、もう1人の指導者だった
――セントラの民――
夢を抱いた人々利用し、世界を自分の物にしようと企んでいた集団
あの日、彼等は彼等の正体を知らない者達をだまし、利用し、封じ込め彼等の計画を実行しようとしていた
始めから企てられていた計画
エスタに攻撃する事を言葉巧みに受けいれさせ
そして、邪魔になった者を始末し
彼等の名を利用し、世界を焦土と化したその後に
“セントラの民”を滅ぼした英雄として世界に現れるはずだった
「私達の理想の世界を作る計画を邪魔するとはっ!」
男とごく少数の仲間達を尋問した結果明らかにされた事実
そして………
「……この件に関する事だが……」
キロスは書類を手に扉を開けた姿勢のまま立ち止まる
ラグナの姿は無い
大きく開け放たれた窓、そして机の上に載せられたままの書類
………抜け出したか……
机に近づき、書類を机の上へと置く
偶然目にとまった文面に書かれていた文字
――死亡確認――
もう一方の当事者は居なくなったか……
数日後、彼等の処分が決定し
“セントラの民”はセントラの荒野へ帰された
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