英雄と少年
(疑念 SideL)


 
「報告書が届いた」
仕事の合間の休憩時間
覚えるある幾度目かの遣り取り
「バラムか?」
今話題になる事
わざわざ勿体つけて話す様な事はそれ位だろう
差し出される紙の束
「多いな」
ただの報告ならこれほど厚くなる筈がない
ってことは、何か起きたって事だよな
バラムの現状
バラム国内の水面下で活発化している動き
判明した幾つかのプロジェクト
バラムガーデンと距離を置こうとしていることは間違いないな
その為に発足したプロジェクト
凍結していたプロジェクトの再開
「モンスター実験?」
注意を引くように書き込まれた文字
「どうやらバラムでは以前モンスターを使った実験が行われていた様だ」
凍結していたその実験が再び動き出した
「動かすってことは、それなりに価値はあるって事か」
「もしくは藁にも縋る気持ちか、といったところだが」
「それはさすがに無いだろ」
現雑、表面上は世界は安定している
今すぐ強引に“力”を用意する必要は無い
「さすがにこの中身は無理だろうな」
「かつてプランに関わっていたが、現役を退いた者でも居ればどうにかなるかもかもしれないが」
そう言ってキロスが肩を竦める
バラムじゃそこまで深い情報を集めるのは無理だろうな
バラムという国には大したつても無い
それにガルバディアなんかと違って、バラムという国には大して注意を払ってはいなかった
これが“ガーデン”ならまた少し話も違うんだがな
「モンスター実験ってことは、例の騒ぎもそれがらみの可能性は出てくる訳だ」
「それについても追加の報告が来ている」
キロスの言葉に促されるようにして、ラグナが報告書を捲る
SeeDとの遭遇
それと村の周囲に残されていた痕跡
村の現状
「居なくなった?」
子供が姿を消した
その記述の前後には洞窟と村との間を何度も行き来した様な子供の足跡が残されていた事
子供が居なくなった時の状況
そして、子供の身の回りの事
最後に書かれているのは親の情報
「………技術者?」
親は村の人間では無く
政府から辺境の村へと派遣されている技術者
「普段は何をしているんだ?」
「村の手伝いや周辺の散策だそうだ」
丁寧に報告書と一緒になった周辺地図
「なんか企むにはもってこいの地形だな」
周辺は森や山に囲まれ、隣の村までかなりの距離が在る
秘密裏に何かを進めるのなら環境的には申し分ない
「バラムには似たような場所は沢山あるがね」
「そう言われればそうなんだろうけどな」
ここまでいろんな事が起きれば、何もないということは無いだろう
「どう出るかな」
何かがある事が知られても良いと思っているのか
それとも、起こる筈の無かったことでも起きているのか
目を通していた報告書を机の上に置く
「………散歩にでも行くか」
呟いた言葉に、面白がるような笑みと諦めたような顔が浮かぶ
「なるべく早く帰ってきたまえ」
早くなるかどうかは、状況次第だな
キロスの言葉に手を振って答える
執務室を抜け出してラグナはバラムへと向かった
 
 
 
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