英雄と少年
(討伐)
どこからか悲鳴が聞こえた
それが合図だったみたいに扉の外が騒がしくなる
サイレンの音
何かがぶつかる音
大人達が叫ぶ声
それから聞こえる銃声
「ここを動くな」
怖い声がそう言って
目の前が暗くなった
遠く、モンスターのうなり声が聞こえる
「戻ってきたみたいだね」
アーヴィンの言葉に私達は周囲へと目を光らせる
モンスターの姿はまだ見えない
「今まで出なかったのはたまたまだったみたいだな」
両手を打ち付けながらゼルが言う
村の周囲、森の中へと探索の手を広げてから三日目
モンスターの巣を発見することはできなかったけれど
モンスター自身が現れた
「依頼を果たすよ」
セルフィは武器を手に、村外れへと足を向ける
「村人の誘導は僕がやっておくよ」
ひらひらと手を振ってアーヴィンが違う方向へと消えていく
「なら俺は反対側に回るぜ」
ゼルがセルフィとは逆の方へと走り出す
モンスターが上げる声が聞こえる
村へと迫ってくる群れの姿
村の二つの入り口に立ちはだかるように立つセルフィ―――ゼル―――に気が付き村の手前で足を止める
獣の様な唸り声
「見たこともないモンスターやな?」
今までいろんなモンスターを見てきたけど
始めて見る形
獣形なのは間違いない
「新種ってやつやろか?」
ガーデンのデータベースに登録せなあかんな
モンスターを前にして、僅かに足を踏み出す
うなり声が低くなる
警戒したようにこっちを伺う姿
………なんや、こないんか?
モンスター達はその場から一歩も動かない
足の下で砂が音を立ててる
モンスターが僅かに身じろぐ
隙を感じとり反射的に動く身体
最初の一撃がモンスターへと届く寸前
モンスターが逃げ出した
深追いは禁物
んなことは解ってる
けどようは深くまで追わなければ良いってことだろ?
ゼルは森へ向かい逃げ出したモンスターを追いかける
漸く現れた獲物
ここで逃がしたら次はいつ現れるか解らない
それにこれはれっきとした依頼
それなりの成果を出さなければ仕事は終わらない
依頼の内容は討伐では無く実態調査
ってことはモンスターの動向を調べなければならないってことだろ?
何も解らない
ただ逃げ出しました
なんて報告じゃ依頼人だって納得しない
無害なモンスターだっていうんなら、それだけの根拠が必要だ
「待てって」
逃げていくだけで攻撃をしようとしないモンスターへと思わず怒鳴る
一瞬モンスターがこっちを振り帰り、巨大な石の裏側へと走り去る
「逃がすかよっ」
見失うことを恐れて、スピードを上げ石の裏へと回り込む
っ!!
反射的に反らした身体
目の前をモンスターの身体が過ぎる
体勢を整え構えたゼルの視界に、幾頭ものモンスターの姿が映る
「待ち伏せってやつかよ」
さっきまでは逃げる一方だったモンスター達がこちらを見てうなり声を上げている
モンスターの様子は俺が良く知っている
普通の、人を襲うモンスターと同じだ
モンスターの様子に警戒して、構える
うなり声と共に、何頭かが近づいてくる
上手い具合に背後には石
このままいりゃ、背後から襲われる事は無いよな
もう少しすればセルフィとアーヴァインが来る筈だ
モンスターが一声ほえるのと同時に、向かってきた
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