英雄と敵
(変化)
早朝
いつもの様に山の様子へと目を向ける
異様なほどの早さで崩れた山土
───どういう訳か崩れた筈の土はその大部分がどこかへと消え去っていた
山の中心にそびえる“塔”の姿もはっきりとその姿を見せている
毎朝、うんざりとした気持ちで目にしていた山の様子に変化が見える
いや、正確には変化が見えない
じっと山を見つめ
何度か瞬きをし、目をこする
「なぁ、変わってない様に見えないか?」
窓の外を見つめてそう呟いた俺の元へ家族が慌てたように押しかけてきた
外に出ればすでにいつもの場所で村人達が山の方角を見つめている
彼等が口にする言葉も一様に山の事
いやここ最近、あれが登場してからずっと山の話ばかりだ
すこし違うのは山の様子だ
やっぱり何度見ても昨日見たのと同じ山の姿に見える
確認した家族も同じに見えるとそう言っていた
集まっていた奴らに挨拶をして話の輪の中に入っていく
「崩壊が止まったのか?」
誰かが呟いた言葉に、何人かが頷く
やはりね皆あの山の様子を見て同じ事を考えたんだろう
お互いに言葉を交わしたことで半信半疑で思っていた奴等も確信したんだろう
辺りに安堵の空気が流れる
当然俺も周りが同じ様に思っていた事に安心し、崩壊がようやく止まったとそう思った
次第にほっと、辺りの空気が緩みかける
安堵の言葉が俺たちの口からこぼれだしたとき
「いや、まだ解らないぞ」
それをたしなめる様に発せられた言葉
その言葉に身体を強張らせ互いが互いに顔を見合わせる
「………そうだな、勘違いって事も考えられる」
「明日になればまた動き出す可能性だってあるからな」
今度は次々に負の言葉がこぼれ落ちる
「もう少し様子を見た方がいいかもしれないな」
先ほどとは違い重苦しい空気の中で、俺は苦い口調で呟いた
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