メンマとニンニクにうずもれて
(part2)

最初にお断りしておきますが、ここに記述したことはあくまでも小生が単独で行ったことであり、全国のメンマ業者がすべて同じことをしている訳ではありません。衛生面の完備したきれいな工場で、清潔に生産されているものは安心しておおいに食べていただきたいものであります。全国のメンマ業者に代わりましてお願いいたします。
(参考までに:小生が1年間働いたこの食品会社は現在存在しておりません。)



「おろし生にんにく」の話。
おろし生にんにくをよく作りやした。

にんにくの強烈な臭いが鼻毛やまつげにも染みついて大変でした。

原料はやはり乾燥したにんにくである。
あのにんにくの一個一個を乾燥させて、スライスにしてあるのです。

ちょうどポテトチップと同じです。
5/8チップというやや小さめのポテトチップが売られているが、この場合は2/8チップぐらいの大きさと思ってくれればいい。

それが10kgだろうか、ビニールの袋に入っている。

レストランの裏口などでよく見かける大きなポリエステルのバケツ(ふた付きの)に食塩(量は忘れてしまったが、多分3kgくらい)を入れ、水を半分くらい入れて溶かします。
食塩が完全に溶けるのを確認してにんにくのスライスを水に溶かしていきます。そのとき、袋からいっぺんにあけちゃうと水に浮きますから、全部こぼれてしまいます。
(これは失敗した訳ではありません)

うまくできるとポリ容器にちょうど一杯になります。

これも一晩そのままにしておきます。

メンマにしても、にんにくにしても一晩、間をおくというのが得意である。
翌日、それを粉砕機にいれて細かく砕くと一晩水分を吸っているからちょうど大根おろしくらいのにんにくができあがる。



その粉砕機というのがちょっと変わっているので説明しておきましょう。

形としては餅つきの「うす」のくぼんだ部分(餅が出来上がるところ)を想像してもらいたい。

そんな形をもった金属性の器の向側半分がふたで覆われていて、その中で鋭い刃をもった包丁(のようなもの)が2本グルグル回る仕掛けになっている。
刃が回転すると連動して、器もグルグル回る。
それで細かく粉砕するのである(わかるかなあ)。

砕く細かさは手ですくって感じとらなければならない。

金属性とは言ったが(確かに金属性なのだが)、何年も使ったのかそれとも、にんにくの成分が錆びつかせるのか、古くさい焦げ茶色をしている。

その日の一番最初に回すときも錆びがすこし溶けだすのだが、構わずやってしまう。
器には一回にポリ容器のにんにくを「ひしゃく」4、5杯移す。

できあがるのに10分くらい。

だからポリ容器1個分だと1時間くらいはかかる。

初めてにんにくをするときのこと(やっぱり失敗したんだなと思っているのね)。
手本を見せてくれたのは社長でなく課長だった。

後になって思うに、その課長もあまりよくは知っていなかったような気がする。
一通りやっているのを見ていて、その後続けて小生がやったんです。

時々器からこぼれかかったにんにくをへらですくうのだが、何事にも几帳面な小生のことであるから、丁寧にすくう事になる。
隅っこのところもこすり取るようにすくった。

これが失敗!!

器の錆びた細かい鉄粉も丁寧にすくっちゃったもんね。
ポリ容器一杯終わってみたら、普通は明るいベージュ色をしているおろしにんにくが鉄粉をめいっぱい含んで、どす黒いベージュ色に出来上がっちゃったのでした。まあ鉄分は栄養素として毒ではないのだが。

社長がそれを見て「今日のにんにくは色が少し変だな。」

「しょうがない。この色の変なのは次のときに少しずつ混ぜて使おう。」

さすが社長、フォローはバッチリ。
ついでに述べると、小生に見本を見せてくださった課長は、そのあと社長から文句を言われたそうな。

原因はそのまま深く追求されずにすんだ。
めでたし、めでたし。


我ながらよくできたザーサイ
ザーサイっていうと、「桃屋」のザーサイを思い出すほどコマーシャルをやっていましたね。ところが、それより断然うまい(あくまでも自分の判断ですが)ザーサイを小生は造っていたんですよ。

まずザーサイの原料ですが、やはり原産地は中国で、日本でいうと「うり」のようなものではないかと思います。それを味噌のようなもので漬けてあります。

これは、何と壷に入って輸入されてきます。しかも30kg。なんでもかんでも30kgですね。壷の中にビッチリと並べて漬け込まれ、壷の口のところに葉っぱのようなものを何重にもかぶせ、その上からコンクリートで密閉してあるのです。壷の大きさは高さが70cmくらい。結構大きいもんです。

コンクリートに先の尖ったものを打ち込み、割ります。うまく割れれば良いのですが、壷まで割れることもよくありました。割れた口からザーサイを取り出すので、手を切ることもしょっちゅうでした。

一回に壷で3個〜5個分くらい使います。これは、味付け用の鍋の関係です。



取り出したザーサイの味噌を良く洗ってから、機械を使ってスライス状に切ります。壷1個分が大きなポリ容器1個分になります。

そこに水を流し、塩抜きを行うのです。美味しくできるポイントはこの塩抜きにあります。あまり塩分を抜きすぎてしまうと、美味しくないんです。

塩っ辛みを残す加減が難しいのですが、これはザーサイを食べて調べます。自分の舌が頼りなんですが、だいたい15分くらいだったと思います。

(やはり、最初は塩分を抜きすぎてパートのリーダーおばさんに注意されましたです。ハイ。)
これができれば、ほぼ8割方完成です。

味付けメンマの時の大鍋にいれて、温めながら調合したたれを入れてかき混ぜます。この時に使用するたれも自分で調合するのですが、とらの巻きがないととっても覚えられないほどいろいろな物を調合するのです。

これは、もしかしたら企業秘密なのかも知れませんが、「牡蠣のエキス」とかなんとか10種類くらいのものを、造る量に照合させて作りました。

製品は業務用なのか知りませんが、1kg入りの袋でした。
ザーサイの味付けは、いつも夜まで残業になるので少しもって帰り、食べました。まあ、出来上がり具合のチェックの意味もありますので、ハイ。



フォークリフトの荷物は重い
ザーサイの壷は一度に20個くらい入荷する。

トラックからおろしたものを、フォークリフトでリフトの前まで運んできて、男子社員がそれを3Fの食材倉庫に運び込むことになっていた。

その日も20個ほど入荷し、I課長がフォークリフトを操っていた。小生もやる気まんまんで仕事をしていた。

フォークリフトが壷を4個積んでリフトの前に止まるやいなや、小生は壷を降ろそうと手を掛けたすぐ後、「ぎゃー」とやや低い悲鳴が口から出た。

小生の足、つまりが長靴の先っちょの部分がフォークリフトのパレットの下に入り込み、その上に壷4個分の重量が乗っかったのである。

「いてててっ」という小生の悲鳴に驚き、課長もすぐにパレットを上げてくれたが...。

長靴を脱ぐと、靴下の爪先部分が真っ赤っか。

おそるおそる靴下を脱ぐと、親指の爪がブラブラと取れそうな感じでかろうじて指にくっついているという状態であった。



常務が車で病院につれていってくれました。

爪はちょっと引っ張ってすぐに取れてしまいました。不思議なことに、最初から「痛い!」という感覚はなかったのです。たぶん恐怖感の方が大きかったのでしょう。

しばらくの間、病院に通院し手当を受けました。
幸いなことに骨には異常なく、生爪をはがしただけで良くなりましたが、それにしてもびっくりしたものです。壷4個分のパレットだけの重さだったので骨折しなくてすんだのですが、フォークリフトの爪の部分の下になっていたら、骨もつぶれていたでしょうね。ああコワッ。



バーベキューの夜の悪夢
8月の末だったと思いますが、会社のバーベキュー大会がありました。

年に1度土曜日の会社が終わった後、会社の前でやる行事です。スペアリブとか焼き鳥とか食材は豪華なものを調達し、道具も本格的に準備してそれは大変楽しいものでした。

社長さんがパン粉よりも水物(メンマとかザーサイなどの分野)が好きなようで、先頭にたち焼き鳥の焼き方を課長に指導して大変な張り切り様です。社員の住まいも近所の人が多く、お子さんを連れてきたりして社員家族ぐるみのいい雰囲気です。

小生は、その日もメンマの作業が夜まであるものなので、バーベキューで飲んだ後、ボイラーの灯を止め、帰ることにしておりました。

が、アルコールの好きな小生のこと。

飲む時は全力で飲む。

同時に周りの雰囲気を盛り上げなければならないという使命感に押され、ついつい頑張りすぎてしまったのです。

気がついたのは夜中の12時ごろだったと思います。

なんと2Fのメンマの水槽のそばで、床に寝転がっておりました。水がザーザーと流れている床の上で、作業服のままでです。

もちろん、作業服はびしょびしょに濡れ、頭も水に浸かった状態でした。

まだ包帯の巻かれた足も水でびっしょり。

後でよーく思い起こしてみると、バーベキューの終わる前に会社の入口からではなく、荷物用のリフトに乗って2Fにあがり、水槽のボイラーバルブを止め、水を流してその場に寝込んでしまったようなのです。

しかも、荷物用のリフトに乗る前、屋外にあるボイラーの灯を止めてからあがったものだから、バーベキューが終わった時、小生のことを「帰った」もんだと思って、会社の入口の鍵も掛けて全員退社ということになったようです。

知っている方も多いと思いますが、荷物用のリフトというのは普通エレベーターの壁がないようなもので、鉄棒を斜めに止めるといういたって簡単な構造で、人間が乗るというのはすごく危険です。

シラフでも危険なリフトに、酔っぱっらった人間が、スイッチを自分が入れ動き出したリフトに入り込むという大胆不敵な行動に後になってから「ゾーッ」としたものです。

そのせいかどうか知りませんが、翌朝は頭がガンガンしてお昼ごろまでおきることができませんでした。

やっと起きても気持ち悪く、腹がへってふらふらするけど食べれない。

エネルギーの補給が必要と思い、お湯を沸かして、砂糖湯を湯飲みで一杯すすりました。

小生が体験した、今までで一番苦しい二日酔いだったと思います。




(次回「今だったらドーピング」につづく)