5人の仲間(それぞれの旅立ち)

もうひとつの会社はどうだろうか。
株式会社T(総合印刷会社)
場所は藤沢でまあまあ近いし、チラシも求人広告社の発行のものではなく、独立したB5サイズくらいのだから結構大きい会社みたいだなあ。
こりゃいいかも知れんぞ。
新横浜の駅から電話を入れてみた。
人事担当Aさんとなっておった。
とりあえず昼食とって午後から伺うことにした。
いまごろ皆んなは教室で勉強の真っ最中だろう。T先生には明日報告するとして、できればいい結果をもって行きたいものだ。
組合の紹介先があまりいいところが期待できない気配なのは、T先生も知っている。
U先生などは今までの経験から、できたら自分で探すほうがいいと内緒でアドバイスするくらいなのだ。
午後から、電車で辻堂駅に着き、電話で言われたようにバスに乗る。
ところがはじめての場所ってのはわからねーよなあ。案の定、バスを降りたところでわからなくなり再び電話をいれやした。
「間違えたのかよお。今から迎えに行くからよ」とざっくばらんな返事の10分後、おじさん(失礼!)が小生を車で迎えに来てくれました。
あとで知ったのですが、その方がチラシに記されておった人事担当のAさんでありました。
面接は、専務といわれる頭のはげあがったおじさんです。
専務室というこじんまりした部屋のなかには、壁一杯にでかでかと年賀状印刷の業績グラフがこれみよがしに貼ってありやした。
年々倍々と売上を伸ばしてあり、鼻息の荒い雰囲気が部屋一杯に充満しておりやした。
でも午前中のU会社に比べると、言い方悪いけど田舎っぽく自分には気が楽に感じて、ここに決めようと思っちゃったのよね。
給料も残業をいくらかやればそこそこは行きそうだし、写植組合の話より全然高いんだもの。
組合の話は、見習い期間は10万以下ってんだよ。
まあなんとかめどはついたということだ。
先生も喜んでくれるだろう。探せばなんとかあるものなのさ。組合の人にはずいぶん脅かされたけど、ざまあ見ろのビーナス。おめえたちの策略にはのらんのよね。
おら−っもっといい会社へ入るんだもんね。

そしていよいよ教室の最後の日。
組合長の挨拶と修了証書の授与が終わった後、組合長との懇談会が開かれた。
その席上、もう就職先をほぼ手中にしている小生、余裕があるもんだから皆んなの不満を代表して組合長にぶちまけた。
就職率100%をうたっておきながら、いざ就職先斡旋の段階になって一人に1社ずつ求人先を割り当てるというやり方はおかしんじゃないの。すべての求人先を全員に解放して、それぞれいきたい会社へ申し込みたいもんね。
組合としては、そうすると少数の会社に毎回応募者が集中してしまい小さい会社に公平に人材が確保できないからという理由だが。
こっちに言わせると、応募者がいかないというのはその会社にそれだけの魅力がないということで、それはそこの責任である。
人材を確保したいならそれだけの努力、改善が必要なんじゃないの。
私たち受講生は女郎屋さんに売られて行く娘じゃないんだよ。
組合からの就職先の斡旋は、小生は横浜の写植屋さんが割り当てられた。もちろんそんなところ行く気はさらさらなく、「考えておきます」とは言っておいたのだ。
組合長も返答に困ってしまった。
小生に就職先が決まっていることは知らないものだから、小生には通勤時間を考えて大和市の写植屋さんを後日紹介するということでその場はまとめられたような形になった。
組合の構成事態が小規模な写植屋さんの集合で、社員20名以上の会社は1社しかないんだ。
そこをみんなで見学したもんだから小さいところは全然魅力がないのよ。
社員5、6名の所にも見学に行ったのだが、現像室なんて2畳もなくうす汚い部屋で病気になりそうだった。
それにさっきのやや大きい会社なんかにおいては、手動写植機は2台あるだけで、あとは30台くらい全部電気で動く奴。
いわゆる電子組版とか、電算写植であった。とにかく画面のある機械がすべて。
これはあとあとになって初めて理解するのだが、その時点では小生達 電算写植と電子組版の違いが正確にわかってなかったのよね。
手で動かすのが(正確には電源がついている)手動写植で、画面のついているのが電算(電子組版)だろうと思っていた。
これからは手動写植の仕事はどんどん減っていくんじゃないだろうかとは、しょっちゅう話し合っていた。
独立してやるんだったらいいけど、勤めるんなら電算だろうと。
小生の次に年長のI君は、うまいところがなくメドがつかないまま修了してしまった。小生に最初紹介された横浜市内の写植屋さんをまわしてあげてくださいと先生にはお願いしたのだが、その後の結果は聞いていない。
彼なら川崎なので、通勤は問題ないはず。
相模原のW君も、相模原にある会社を見学したらしいのだがいまいち納得いかないらしい。まあでも独身だから、何処にいってもなんとかやっていけるだろうとは思うが。
そんな訳で、修了時までに就職先決定もしくはメドのついたものが3名で、就職率60%予定という結果になった。
組合の方針については今後に大きな問題を提議した形となった。
2月20日頃修了。
小生のT印刷会社入社日は、2月23日であった。

次回「電算写植と電子組版どう違う?」に続く。