翌日か翌々日、熱が急激に上がりだし40度近くまで一気に上昇しました。 会社も休む羽目になってしまったのです。 頭もボーっとして何がなんだかわからないような状態になってしまったのです。 それでも、披露宴のことは頭から離れません。ここで、このままリタイヤするようなことになっては、田舎の兄夫婦にも実家のおふくろにもメンツが立ちませんわな。 小生、一生の不覚として最大の汚点になってしまいます。 その後数年は田舎に帰れないでしょう、みっともなくて。 親戚の姉夫婦にだってなんて言われるやら。 いろんな影響が次から次へと小生のガンガンする頭に出ては消え、出ては消えていきました。 ああ、なんとか熱を下げて東京へ行かなくては!そんな思いがいっぱいに頭を支配するのです。 氷枕をとっかえひっかえ、病院からもらった薬を指示されたとおりに真面目に飲みました。 食欲はもちろん湧きませんけれど、栄養をとらなければなりませんのでプリントかヨーグルトなど食べれるものを少しでも多く取りました。 会社のほうも3日くらい休みましたが、思ったように体調はもどりません。 金曜日(披露宴の2日前)まで休んでしまいました。土曜日は休日なのですが、やっぱり床から起きることはできません。 なんとかして、当日は起きてても大丈夫でいられるように、体力の回復を図りました。 土曜日の夕方には、なんとか熱のほうは37度くらいまで下がりました。でもとても「元気はつらつ、テンション高く会場を盛り上げる」というまでの自信はわきません。 本当に大丈夫なんだろうか、不安はますます大きく膨らんでいきます。 でも、もうここまで来たのですから精一杯やるだけです。 東京でやるっていったって、集まる人はどうせ長野と新潟の、そういっちゃ悪いが田舎の人たちじゃないか。自分とおんなじ田舎者だあ。 緊張するこたあないや。完全な開き直り!! 当日の朝、熱はまだ37度はありましたが、気持ちの高ぶりがそれをカバーしているように思いました。 この日のために作成した「披露宴進行マニュアル」のシステム手帳を持ち、東京へと向かったのです。 久しぶりに逢う田舎の兄弟、親戚の人たち、懐かしい面々との再会で本当は楽しいのですがそれ以上に、無事に大任を果たさなくてはとの緊張感の方が先に頭について離れません。でも、あまり緊張していると思われるのもみっともないと言うか、小生の都会人(?)としてのプライドが許さないのです。 できるだけの平静を装っていました。 弟だけには「もし、俺がダウンしたらこの手帳通りに頼むぞ!」と耳打ちしました。 弟は、「わかった」と言ってはいるものの、上の空で返事しているようでした。 「ええい!もうやけくそだ。なるようにしかならん。終わってダウンしても、とにかく披露宴だけはなんとかするんだ!」 教会での結婚式が始まりました。 神父さんの馴れた進行で、順調に進んでいきました。誓いの言葉、指輪の交換、歌詞のわからない賛美歌のようなのも口パクで、とどこおりなく式は終了しました。 いよいよ披露宴の時刻が近づいてきます。 式の後の空白の時間に、いち早く披露宴の会場に入り、「披露宴進行マニュアル」を司会テーブルにセッティングし、会場内をチェックしました。別に料理をチェックする訳ではないのですが、雰囲気にならして気持ちを落ち着かせるのです。 ここまで来たときには、熱の事は不思議と頭から離れていました。 ![]() 「皆様、本日はご多忙中のところ○○家○○家の結婚披露宴にご出席いただきまして、誠にありがとうございます。・・・・」 「それでは、新郎新婦の入場でございます。皆様の暖かい拍手でお迎え願います。」 パチパチパチパチ・・。 いよいよ始まりました。 小生の言葉ひとつで、会場の数十名の全員がそのように動くのです。なんていい気持ちなんでしょうか。これぞ司会冥利に尽きるってもんでございますよ。
絶対に間違えてはいけない、名前類には赤い色で大きくふりがなをつけてあったのでバッチリです。そんなわけで、来賓のご紹介、祝辞もこりゃまたバッチリ!わが親戚の面々も「小生の堂々たるエンターティナーぶりに驚いているわい。ふっふっふっ。」完全な自己満足・・。 「新郎新婦はこれよりお色直しのため一旦退場いたします。ご列席の皆様には、その間ごゆっくりとおくつろぎ下さいませ。」 ここで、司会も小休止です。 ああ、やっと一休み・・。ふっと肩の荷が下りました。 席に座って一杯。のどもカラカラです。ビールのうまいこと、弟が側にいてくれたのも力強い援軍でした。
新郎の母親である義姉に「○○君、上手だよ。司会うまいわ。」といわれ、小生の気分は空高く上りつめるような感じです。 もう、落ち着いて残りの手順も行けそうです。 「すみません、後でカラオケ歌う△△ですが。あのう、キーを少し下げてもらいたいんですが・・。」 「ああそうですか。あちらにホテルの人がいるので、直接言ってもらいたいんですが。」本当は司会が言ってあげるべきだったのかもしれませんが、「あちらも結構緊張してるんだな」と、密かにほくそえんだり。 もう、他人の様子を観察するほど落ち着いてきました。 やがて、お色直しした新郎新婦がキャンドルサービスで再び入場。 友人代表の祝辞、カラオケとすいすい進行。ビールの補給後は、もう自分の司会に酔いしれんばかりに振舞う小生でありんした。 朝の熱の具合などもうぜんぜん忘れっぱなし。 とうとう最後まで、きました。 披露宴でいちばん泣ける場面、ご両親への花束贈呈。 そりゃあもう最高に感激的でした。 「ご両親へ、ここまで育てていただいた感謝の気持ちをこめましての、花束の贈呈でございます。皆様盛大な拍手をお願いいたします。ワー。湧き上がる拍手の中、涙の贈呈でありました。」 ああ、終わった。責任を果たしたあ。 しばらく呆然と立ちすくみました。 こうして見事、小生は都会人の面目を保つことができたのです。 親戚の面々も小生をあらためて見なおしたに違いありません。(自己満足だったりして) 次回 真夏の体験<前編>に続く |