英雄と犯罪者(3)
「ってことで、補佐に回って欲しいのよ」
「……俺は教官じゃない…」
ガーデンの廊下の片隅
「それは、解ってるわ、だけど、人手が足りないのよ」
キスティスは、嫌がるスコールを無理矢理説得しようとしていた
「他にいるだろう」
数の少ない教官の代わりに、候補生の実習練習に補佐役としてついていく
「手のあいてるSeeDには声を掛けた後よ」
以前の学園内紛争のしわ寄せで、教官の絶対数が不足している
余談だが、そのしわ寄せのおかげで、キスティスは、再び教官職に復帰していた
もっとも、先の戦いでキスティスもいろいろと思うことがあったらしく、教官としてやっていくのに充分な成長は遂げていたようだ
だが、いくら教官が不足しているとはいえ、スコールには候補生の補佐をするというのは、向いてはいない様に思える
……………なら、十分だろ
SeeDの人数はさほど多くはないが、数人で組む候補生の実習には、教官と数人のSeeDで間に合うはずだ
「頼むわ、補佐っていっても、ただついて行くだけなんだから」
ついて行くだけ?
キスティスの口調からすると、どうやら本当に後をついて行くだけらしい
それは、補佐っていうのか?
普通補佐というのは、ある程度の手助けを意味しているはずだ
「人数も二人一組だから、そんなに負担にはならないわよ」
二人一組?
そんな小人数で実行するのか?
参加するだろう人数と教官及びSeeDの数を思い浮かべる
さほど数が多くないSeeDの内、学園内に所属しているSeeDという条件も加わってくる
人数が足りないな
スコールがそう思うのと同時に
「スコール、お願いするわ」
キスティスは、強引に頼み込むと、新たな人を見つけて走り去っていった
…………………………
いかないとならない、のか?
スコールは走り去るキスティスの後ろ姿を呆然と見送った
「今回の訓練は、二人一組で行います、補佐として、教官もしくは、SeeDが一人ついていますが、彼らは、貴方達の行動に口出し及び手出しは、一切しません、すべての判断は自分達で行うように、ただし、何か事が起こった場合は、速やかに彼らの指示にしたがうように」
バラムガーデン前に、数多の候補生が真剣に実習の内容を聞いている
そして、スコールは不本意ながらも、補佐役のSeeDの一人としてその言葉を聞いていた
本当に、ただついていくだけ、なのか
何かが起こった場合と言ったが、スコールの経験上、候補生自らが問題を起こさない限り、補佐する側が動かなければならないという事態にはならない
ああ、戦闘っていう事態もあるか………
単純に戦闘能力の問題で危機に陥るということはあり得る
ただし、学園側では参加する人間のレベルと実習の内容を照らし合わせて参加者を選出している
普通に考えればされほど危険な事態というのはあり得ない
…………ついていく必要はあるのか?
スコールが悩んでる間にも学園側の話はつづいていた
「さて、実習地ですが今回は“エスタ”に向かいます」
……エスタ?
スコールは唖然として、シドの顔を見つめた
「えぇー!?エスタって、許可出てるんですか!?」
スコールの周囲からも驚きの声が上がる
エスタは、立派な一つの国だ、バラムに存在するガーデンとはそれほど親密な関係にはない
ちょっと、まて…………
エスタ国内で、ガーデンのSeeD候補生が実習訓練をする
普通に考えたら有り得ない事態だ
だが………………
スコールの脳裏に、ラグナの顔が思い浮かぶ
何考えているんだっ!
きっと、深く考えずに、承知したに違いない
「エスタ国に許可は取っています、エスタ側としては、実習として国内にはびこるモンスターを退治してくれるのならば、ということです」
……モンスター退治?ただで、退治してもらえるなら、ということか?
それならば、エスタ政府にしても利益がない訳ではない
「そして、実習の場所ですが……」
ざわめいていた人々が静まり返る
「町や、村といった、人が生活する場所以外であれば、どこでもかまいません」
なんだって?
「すべて自分の判断で、モンスターを討伐してください」
シドは、周りのとまどいも意に介した様子もなく、にこにこと微笑みながら告げた
スコール達は無事にエスタへと入国した
このエスタへの入国も、“訓練”の名目でガーデンから、各自の裁量で移動する事が求められた
もっとも、特殊な環境に位置するエスタに向かうその手段はさほど多くはなかったが……
スコールは、補佐についた二人の候補生から、少し離れた位置に黙って立っていた
彼等が移動に選んだのはごく普通に鉄道の利用だった
最も、正規の入国手段以外を取るというのなら、かなりの苦労を覚悟しなければならない
スコールは、素直に鉄道を選んだ彼等に内心ほっとしていた
いくら大陸を囲っていた障壁がとり払われたとはいえ、海辺に面した場所を切り立った崖に囲まれた中心地付近へ直接上陸することは、他国の人間はできないようになっている
最も莫大な金と、VIPならば飛空艇や船を使うという手段がないこともない
あまり知られていないが、エスタには海軍もあり、切り立った崖を切り開いた専用の港も存在している
隠れる必要がないなら普通に鉄道を使い上陸するべきだ
巨大なエスタの都市が見える
いつのまにか見慣れてしまった風景
生活する場所に近づくな、か………
エスタは、外界へ開かれた場所から人の住まない平原へ向かう為には、遠い道のりを歩かなければならない事をスコールは知っている
移動手段で、車を借りに行くことも減点の対象だろうな
駅では、旅行者の為に車を貸し出している
候補生は、意見の折り合いがつかないのか、まだ相談している
移動手段の他にも、最終的な目的地も決めなければならない
視線の先には巨大な建造物
スコールは、上空へと視線を移動させる
空には雲が覆い被さっている
いやな天気だ……
海からの湿った風が吹き抜けていく
スコールは、眉をひそめた
勘とか、そう言ったものを重要視したくもないし、信じたくもないが、どうしてもいやな感じが拭えない
まだ相談が続いている
スコールは、さっきから、ちらちらと向けられる二人の視線に気づいていた
……期待されたところで………
実習に際して、一切手出しをしてはならない
スコールは他の補佐役よりもエスタの事を良く知っている
だが、ヒントを与えるという行為もしてはならないものだろう
スコールは、前方にモンスターの姿を見つけた
………ここで、攻撃の対象がこっちに来た場合はどうすればいいんだ?
候補生のやることに手出しはしない、だが、自分の身に危険が迫った場合には?
モンスターの姿が見えなくなる
……自己防衛は、手助けにはならないだろうな……
ガンブレードを確認するように握り直したスコールの視界の隅で、候補生達はやっと行動に移った
太陽の光が届かない洞窟をスコールは歩いていた
周りを照らし出すのは、先頭を歩く候補生が持つ人工的な灯りのみ
洞窟の中に微かな足音が響く
音は二人分……
ときどき二人が確認するようにスコールの方を振り返る
………やる気はあるのか?
自分達の実習だというのに、あくまでスコールを頼ろうとする二人の姿に呆れる
スコールは、辺りの気配を探りながら歩みを進める
背後からモンスターに襲われた場合はどうすればいいんだろうな……
モンスターにとって、訓練参加者も補佐役も関係ないだろう
自分の身の安全の為に倒してしまった場合はどうすればいいのか
開けた場所ならば離れてついていく事ができるのだろうが、ここではそうはいかない
それにしても………
辺りに生き物の気配は感じとれない
それ以前にこの洞窟に入ってから一度もモンスターに遭遇していない
……変な感じがする
入り組んだ道筋、モンスターだけでなく、動物が隠れ住むのにも悪くはない環境だと感じるが、この場所に踏み込んでから、まだ一度も生き物に遭遇していない
幾つ目かの曲がり角、スコールは、僅かに違和感を感じた
二人は、何の躊躇もなく角を曲がる
スコールは、足を止めた
“ヒュンッ”
空気を切り裂く鋭い音がした
とっさにスコールはガンブレードを構える
刃先が彼等の体に触れる寸前で止められている
「………スコールくん?」
暗闇の中から、見知った人物が現れた
ラグナサイドへ スコールサイドへ
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