英雄と犯罪者(4 SideS)


 
スコール達はキロスの後に続き洞窟の入り口へと道を引き返していた
極力灯りを落とした中を、キロスはスムーズに歩いていく
キロスとスコールの間には肩を落とした二人の候補生
「君達には、申し訳ない事をした」
声は吐息にのせる様にして微かにささやかれる
行きとは違い、時折人の気配が感じれる
………人が集まっているな……
気配や足音を極力押さえたその気配は明らかに訓練された人間のものだ
「………いえ」
明らかに力を落とした声が答える
「そう力を落とさないで貰いたい、ガーデン側の実施日を確認しなかった私達のミスだ、私の方から、事情は伝える事にしよう」
フォローのつもりなのだろう、キロスの言葉
だが、キロスのそのフォローはきっと、効果が薄い
キロス自身は、言ったとおりにガーデンへと連絡を入れるだろう
だが、その言葉は実習を半ばで放棄したことに対する理由にはならない
「ありがとうございます」
安堵したようなその返事にスコールは内心頭を抱えた
最悪だ………
「……スコールくんも、真実をそのまま伝えてくれる」
キロスの言葉に含みを感じたのは、スコールだけだったようだ
スコールは、期待するような、懇願するような視線が自分へ向けられた事に気づいた
「……ああ……それが役目だ」
真実をそのままに報告する
それが補佐役としてのスコールの役割の一つ
スコールは、ありのままを報告する
起こった出来事、理由………そして、その時の会話も………
ほっとしたようなの様子にスコールは頭痛がする思いがした
…………SeeDになるのは無理だろうな
隠された言葉を悟る事が出来ない
的確な状況判断をするには、会話の一つにも気を配る必要がある
………ただ戦うだけの傭兵ならばそれでもいいのかもしれないな
近くに現れたエスタ兵がキロスの姿を見、何事もなかったように消え去る
巧妙に隠された気配
何人もの兵士が洞窟の奥へと進んでいく
エスタ軍そのもののレベルが高いのか、優秀な人間のみを今回の作戦に当たらせたのかは解らないが、優秀な者ばかりがこの場にいるのは間違いがないようだ
前を歩く候補生とは比べ物にはならない
………あの言葉も当然だな
キロスが言った、SeeD候補生としては、致命的な言葉が思い出される
“作戦に支障が生じる”
エスタ軍が、この洞窟の中で重要な作戦を展開している事を告げられた後に、戦闘のプロというべきSeeD候補生が“足手まといだ”といわれた事実
この事実は大きなマイナスになる
少なくともSeeDを目指しているものが戦力を否定される事があってはならない
その上、その言葉に抵抗や反抗をする訳でもなく、甘んじて素直に言う事を聞いている
受けた任務を問いただす事をする事はない、だがこの場合は………
このことは、SeeDとして的確ではないという判断をくだされる要因となるだろう
………………
なんでこんなのが生徒としてガーデンに留まっているんだ?
もしかしたら戦闘能力だけはあるのかもしれない
一度もモンスターと会うことが無かった為、スコールは二人の実力を見てはいない
入り組んだ道をキロスは遠回りして進んでいる
時折、キロスは立ち止まり周囲を見渡している
まれにエスタ兵が姿を現す
状況を確認している、といったとろか
特に何も言わないが、キロスは兵士が適切な位置に配備されているか、確認しているのだろう
……………この警戒の仕方は、ただの演習じゃないな………
軍事演習というには、兵士の質が高く、人数が少ない
エスタ軍の精鋭部隊、といったところか
もしかしたら、敵味方に分かれた演習だという可能性もある
スコールの目に入り口の灯りが見える
可能性はあるが、演習ではないな
スコールは、ガーデン内で様々なパターンの訓練を経験している、その中には、ある一定の場面の想定しただけのものや、実際の作戦に組み込まれたものまで実にさまざまなものがあった
ただの演習と、実践を交えた訓練とでは、その場の雰囲気が違う
たとえ、実戦を想定したものとはいっても、演習では、よほど運がない限り命を落とすことはない
この緊張感は、実戦だ
スコール達は、洞窟の外へと出た
スコールの考えを裏付ける様に洞窟の外に残ってる兵士の数は意外に少ない
演習であるならば、攻め込む側の兵士がいなければならない
明らかに少人数の実戦だろう
あわただしく兵士が近づいてくる
「すまないが、君たちは、向こうで待っていて貰えるかな?」
キロスが、片隅に隠れるように設置されたテントを指さす
邪魔をするな、ということか……
彼等は、指し示されたテントへとおとなしく歩みを進めていく
…………問題だな…………
おとなしく言うことを聞くだけの者は、SeeDとしては使えない
スコールは、振り返りキロスの方を一瞥した
「申し訳ないが、正直なところ彼等では邪魔になるのでね、おとなしくしていて貰えるとありがたい」
待ちかまえていたようなキロスの言葉
「……………………」
スコールは、向きを変え、二人の後を追ってテントへ向かった

「エスタ軍の用事が終わるまでこの場で待機だ」
所在なさげに佇む二人にスコールはそう宣言した
ここで下手に動かれたらろくな事にはならない……
二人が自滅するのは勝手だが、関係のない人々を巻き込む可能性、何よりエスタ軍の作戦を崩壊させる可能性が大きい
「はいっ!」
テントの外が静かにざわめく
何か新たな展開でもあったのだろう
エスタ軍、か………
下手に行動を起こそれる事を警戒してだろう、兵士が1人さりげなく見張りに着いている
エスタ軍特有の武装
高度な機械技術、それでいて、機械だけに頼ってはいない兵士達……
ここにいるのは一般兵とも違い、機械兵士とも違う
以前垣間見たエスタ兵士の戦い方が思い浮かぶ
見てみたい
それはたぶん純粋な好奇心
確か、“彼等では”と、言ったな、なら見に行っても大丈夫か?
軍隊のあり方というのは、ある程度学習はした
だが………
あくまでもガーデンは“兵士”の養成校、そして、SeeDでさえも戦闘支援をする傭兵
イレギュラー的存在であるSeeDは、組織だった軍隊の実状は知らない
スコールは、どこかの軍に正式に雇われたこともない
チャンス、なのかもしれない
僅かな逡巡の末スコールは決心を固めた
「………少し、様子を見てくる」
スコールが願った通りに兵士はテントの外へ出るのを止めなかった
…………10人もいないな
待機している兵士の数が極端に少ない
すでに配置についたということか?
それとも何か下準備でも進めているのだろうか?
軍隊規模であっても、作戦に必要な準備は、大して変わらないだろう
スコールは、洞窟の入り口へ向かって歩く
「おいっ!そこの………」
背後から掛けられた声に振り返った
警備兵だろうか?
二人組の1人がスコールを見とがめ声を掛けた
……これ以上は進めない、か?
「……いいんだ……」
スコールに声を掛けた兵士の肩を掴むようにして、もう1人が制止している
「自由に行動してくれてかまわない」
スコールに伝える言葉に驚いたように振り返る兵士の姿
お墨付きということか
背を向けたスコールの元にとぎれとぎれの会話が聞こえる
ふと耳に飛び込んできた言葉にスコールは、眉根を寄せた
…………また、か………
聞こえた言葉は“大統領”という単語
“魔女を倒した”や“世界を救った”SeeDという言われかたにもうんざりしているが、ここ(エスタ)では、SeeDであるということよりも、“ラグナ”の血縁者だということが重要視されているようで、不愉快な気分になる
ラグナは、関係がない
スコールは、不愉快な気分を抱きながら、入り口の方向へと歩く
目に入ったその人物の姿にうんざりした気分で足が止まる
なんでここにいるんだ……
スコールの存在を教えられたラグナが、振り返った
仮にも大統領という人物が、何故こんな前線にいるんだ?
ラグナの性格を考えればここにいるのは至極当然のことなのだろう
………いったい何を考えているんだ?
ラグナではなく、ラグナがこんな場所にいることを容認しているエスタ上層部のあり方に疑問が生じる
ラグナと目が合う
ラグナがここにいる理由、それは、無理矢理納得させた
それ以外ないだろうということにスコールも気づいている
そして、案外エスタという国自体がラグナに甘い事も……
ラグナは、こんな状況でもスコールを見て笑う
それでも
こんな所まで、何をしに来ているんだ?
ラグナという人物をある程度知っていても
………普通なら、大統領という立場の人間は、こんな所に出向いたりしない
そう思わずにはいられない
近づこうとしない、スコールにラグナは早く来いとでも言うように手招きする
立場を解ってるのか?
動かないスコールにじれた様にラグナが駆け寄ってきた

 
 
次へ ラグナサイドへ