英雄と犯罪者(4
SideL)
灯りの中を動く複数の人影が見えた
「………当たり、かな?」
犯人らしき者達がいる可能性がある
その情報を元にラグナは、自ら確認の為にこの場所に来ていた
『少なくとも、まっとうな人ではないだろう』
洞窟の奥まった場所に、隠れ住む人々、それだけでも充分怪しげな雰囲気がある
「んー、だけどよ、捕まえたら違いましたじゃ、話になんねーし」
見る限り、当たりだと思うけどな
妙に組織だった行動、ある程度訓練したと思える動作
もっとも相手の顔を知らない為に、連れ去られた村人の存在を確認しない限り、そうだと言い切ることができない
「結構人数もいるな……」
『あれだけの事をやってのけたんだ、これくらいいてもおかしくない』
ラグナ達がこの場所にたどり着いたのは、怪しい人間の目撃情報、等ではなく軍による地道な捜査によるものだった
トラビア方面のエスタ辺境地
エスタの人々が忘れ去ったかのような場所にこの洞窟は存在していた
そして、その調査の課程に置いて、その正体についても情報局の努力により、ある程度の予測がついていた
「見知った顔ってのは無いよな?」
気づかれないようにラグナは相手を伺っている
『それはないだろう』
いたとしたら、それはそれで大事だな……
ラグナが見た限りでは、見知った者は1人もいない
短時間の内に村人全員を連れ去り、尚かつ、かなりのレベルで機械に精通している集団、などと言ったら自ずと範囲は狭められる
ある一定レベル以上の組織だった集団
そして、ここは閉ざされた国であるエスタだ
条件を満たす組織であっても、他国に属する組織が集団で進入する事は難しい
国交が開かれてから、まだ数える程度の月日しか経ってはいない、その上、エスタ国内へと入国する事ができる領域が限られている
そして、多くの人数が入り込む事も難しい
………もっとも、俺の知らないところで、抜け道があるのならわからないけどな
エスタの国土は広い、そのすべての場所の現状を正確に知ることはできない
だが、抜け道を考慮せずに、上記の条件を満たせる組織は国内の勢力以外にはあり得ない
正規の入国手続きを踏まずに国内へと進入を果たす事ができる、進入できる場所を探しだす事ができるということになれば……
「いったん戻るか」
……細かい打ち合わせもしないとならないし……
ラグナとは別に、村人を探している者や、洞窟内の地形を調べている者もいる
最優先で行わなければならないのは、犯人を捕らえる事ではなく、村人を救出することだ
多少取り逃がしたところで、どうにかなるしな……
音も立てずに、二人はその場を離れた
めんどうだな………
兵士を配置につかせる為に歩き去るキロスを見てふと思う
軍を使う事によって、人数を確保できるおかげで多彩な作戦を練ることができる
昔は気楽で良かったよな
だがそれよりも、数人の仲間と行う作戦の方がラグナの性にはあっている
気心の知れた仲間と、気ままに行う戦い
“大統領”なんて事やり始めてから、面倒な手続きばかりが増えている
同じように“軍”に所属しても、目的だけ教えられ、後は好きにしろと言われた兵士時代とも違う
今回も大騒ぎしたしな……
それでもその立場を考えれば、ラグナは驚くほど自由だ
「大統領」
「おう、どうした?」
掛けられた声に振り返る
気が付けば、キロスだけでなく、ウォードもラグナの側から立ち去っていた
……どうも、気が抜けてるなぁ……
昔を懐かしんでる場合じゃないよな
ぽりぽりと頭を掻きながら、自分を呼んだ兵士の元へと近づく
「で、なんだって?」
「それが、先ほど洞窟に入っていた者達がいたのですが………」
まさか…
外へ出ていた仲間が帰ってきた可能性が頭をよぎる
「見つかったのか!?」
「いえ、そうではなくっ」
一瞬走った緊張が解ける
……見つかったんじゃなったら何だってんだ?
騒がなければならない事と言えば、他に全く関係ない一般人が紛れ込んできた場合だが、こんなへんぴな場所に近づく一般人はまずいない
……それ以前にこんなところまで来ることができる一般人ってのがいないよな?
辺りの風景は、山ばかりだ
他に考えられる事と言えば、見知った顔を見つけた時……
……こんなところに好きこのんで来る知り合い?
そんな物好きに覚えはない
「これを見てください」
差し出されたのは、この場所を撮影したビデオ
…………………
なんだ?やっぱり知ってる人物が映ってるってでも……
ラグナは、ソレをのぞき込んだ
「スコール!?」
ビデオには、スコールの姿が映っていた
……これ、今の出来事だよな?
「……どういたしましょう」
どうってったって………なんでスコールがここに来るんだ?
わざわざこんな所に来たがるタイプじゃないよな?
スコールと、ガーデンの制服を着た連れが二人
って、ことは……ガーデンの意向だろう
まいったなぁ
あまりのタイミングの良さにめまいがする
………ん?
スコールの前を歩く二人に目を留める、知った顔ではないのはともかく……
「……こいつら、SeeDじゃないな…………」
当然ながら、普通より少し多くガーデンに出入りしているとはいえ、SeeDを全員知っている訳はない
ガーデンの制服を着ているのを見る限り、ガーデンに所属する者だろう、が
「ええ、プロの傭兵といった感じはしません」
雰囲気が明らかに違う
一緒に来てるのが、SeeDじゃないのなら、任務じゃないよな?
この事件の事をなんらかの手段で知ったガーデン側が打った手だてではない
もし、そうだとしたら、ガーデンから接触があって、おかしくないよな?
うーん………
ラグナには、スコールがここに来る理由が思いつかない
「……大統領……」
考え込むラグナに困ったように兵士が声を掛ける
「あ?……ああ………」
………部外者なのは、間違いないんだったな
だけどな、どうするって言われても、何で来てるのかがわかんねぇしなぁ………
なんかの任務が絡んでたりしたら、絶対に引かないよな
「……とりあえず保留」
「………………………」
しょーがねーだろ?
本人がいない事には詳しい事が解らないし
最悪、勝手にやるって言われてもこっちの邪魔される事はないだろうし
「ま、キロスがうまく捕まえてくるさ」
根拠は全くなかったがラグナは、気楽にそう言った
あ、なんか本当にそうなる気がするなぁ〜
口に出した事は本当になる、だったか?
確かそんな言い伝えがあったよな
「……解りました、では、これから中に入る兵士達にスコール氏と出会ったら、戻るように伝えるように言っておきます」
「ああ、頼む」
兵士は素早くラグナの元から去っていった
ま、スコールなら大丈夫だよな
…………どうせなら手伝って貰うかな……
作戦の確認と準備の為をする為にラグナも巧妙に隠した作戦本部へと向かって歩き出した
ラグナはもちろん、報告に来た兵士もスコールがこの件の当事者である可能性を全く考えてはいなかった
「そーいや、そんな事も言ってたな………」
ラグナの願い通りに、キロスはスコールを連れ帰ってきた
ここに来た目的もしっかり聞き出している
訓練にその補佐か……
エスタ国内でのモンスターを相手にした訓練を許可した覚えは確かにある
ガーデンの責任において、国内にはびこるモンスターを駆逐して貰えるのなら、と珍しくエスタの高官達も乗り気だった
だが……
「今日、実施するなんて、連絡はないよな?」
ラグナが忘れているだけだとしても、キロスやウォードは覚えているだろう
それよりも、もし、ガーデンが日程を伝えてきたのだとしたら、優秀な秘書が、朝教えてくれるはずだ
『聞いてない』
ラグナの確認にウォードはゆっくりと首を振る
今日の予定だということを聞いた人間もいなければ、そもそも日程日を知っている人間もいない
「だと、向こうのミスだな」
何か問題が起こった場合、エスタが責任を取る必要はなくなる
ま、いちを確認してみるか
ラグナが出かけた後にガーデンから連絡が入っている可能性もなくはない
「それで、どうするつもりかな?」
笑いを抑えた声
どうするも、どうしないもないだろ………
「きちまったもんは、しょうがねーし………」
「参加させるっということかな?」
だから、たのしそうな顔してんなよ
「……まぁ、ちょうど良かったかもしれねーし、どっちみち、言わなきゃならない事だろ?」
来たのがスコールで良かったんじゃないか?
……だから、笑ってるなよ……
肩に手が触れる
「なんだ?」
『後ろだ』
うん?
振り返ると、スコールが立っている
目が合う
スコールは、苦みをつぶしたような顔をしている
「グッドタイミング」
ほんとタイミングいいよな
ラグナは、スコールを手招きして呼び寄せる
むっとした顔をして、動かない
まいったなぁ………
ラグナは小さくため息を着くと、スコールの元へと駆け寄った
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