スコールはラグナの後に続いて静かに洞窟を歩いていた “村を襲った犯罪組織をとらえる事” それがラグナに聞かされたこの作戦の概要の一部だった 不意に前をラグナが立ち止まった どうかしたのか? スコールには、何の異変も感じられない 「ほらっ」 取り出した何かをラグナはスコールに投げてよこした スコープ? 投げ渡されたそれをスコールは反射的に受け取った 手の中にあるのは、スコールの知識にはない形のスコープだった 「暗視スコープだと、あんまり役にたたねえけどな」 暗闇でも視界が利くというものだが…… 役に立たない? 光の元で見るように色彩まではっきりとみて取ることはできないが、充分役にたつはずだ それとも、必要としない程度の灯りを確保できるのだろうか? 相手が灯りを持っているという事はありそうだな 受け取ったままのスコープを手に考えていると、同じ物を取り出し、ラグナは灯りを消した 光が無くなった事により、黒ずくめの服装をしたラグナの姿が闇に沈む 「気休めみたいなものだけど、掛けとけ」 落とされた灯りの中、視界に不自由さが生じる 見えるに越したことはないな 多少なりとも役に立つものを放棄する必要もない 気休めの言葉が気になったが、スコールは渡されたスコープを掛けた はっきりと辺りの様子が見える ………性能が格段に良いな……… これが気休め、なのか? 納得がいかない 「見るよりも気配を感じ取る方が早いからな」 笑いを含んだような声 気配を感じ取る、それは目に見えない敵をいち早く知るには有効な手段だ 戦いの最中でも、気配でわかるのか? スコールは、ラグナをそっと伺う 先ほどの言葉がどういった意味を持っているのか解らない 「さて、しばらく休憩だ」 岩の影に身を隠す様にして、座り込む 休憩?…………ああ、準備が整うまで待機ってことか…… 目立たないように、スコールもまた、岩壁に寄り添う 巧妙に消された気配 気配を断つことがうまいものは、気配を感じる事もうまいのかもしれない 自然と同化する事が一番うまい気配の消し方 確かそんな技があったな…… 残念ながら、ガーデンでは、そう言った自然を組み込んだ技を教えられたりはしなかった いずれ戦うかもしれない魔女を想定していたSeeD SeeDを生み出す為の生徒達 正攻法でしか倒す事のできない魔女を倒すための組織であるためか、ガーデンでは、戦闘訓練に重きを置いている 特殊な事はその道のプロにはかなわない 奥の方から微かな物音が聞こえる スコールの意識が引き戻される 「……聞きたいことがあったら、今のうちだぞ……」 タイミング良く掛けられたラグナの言葉 聞きたいこと? ………聞きたい事はある、だが、それは…………… ラグナの質問は、きっと今回の作戦の事について、スコールが聞きたいと思ったこととは違う
スコールに聞かれて、手伝って貰おうって調子のいいことを考えていたのに、本当に教えていいのか、迷っていた 納得がいかないという顔をしてる 迷った末の言葉は、自分でも中途半端だと思う 「まあ、犯罪者っていうよりも、プロの犯罪組織だな」 プロの犯罪組織っていうのも変な言葉だな 「………テロリストじゃないのか?」 テロ………… 真面目な顔をして結構怖いこと言うよな テロを起こされてもしかたないって感じなのか? いろいろがんばってるんだけどな…… 「そんな大層なものじゃなくって、犯罪者だよ」 ん?なんか変な事いったか? 大層なものじゃない、の言葉にスコールが変な反応を示した まるでテロリストというものが、大したものじゃないとでも言うような…… テロリストってのは、曲がりなりにも今の政治体制を破壊する組織の事なんだぞ? 今の平和な世の中にそんなものが出て来たらそれこそ大事じゃないか 「……それで?」 「それでって………」 ここでそう返されてもこまるんだけどな……… 実際、村人を誘拐した、犯罪者ってしか言いようがないし…… 「たかが、集団で逃げ込んだ犯罪者を捕まえる為だけに、軍隊なんかを出すのか?」 ああ、そこか…… 確かに、普通軍まではいかないよな……こういう場合は警察、か? 優秀な兵士ばっかりだってのも、見ればわかるだろうしな その辺は確かに疑問だよな 「いや、プロだって言っただろ?」 洞窟から出てきた兵士が右手の方へと走り去っていく 作戦の実行が直前に迫っているため、人の行き来が激しい 極力音を立てずに行動しているはずだが、騒がしく感じる ラグナは視線で、兵士の後ろ姿を追いかける 頼むから少し静かにやってくれないかな…… 「…………」 圧力のこもった視線を感じる 苛立ったようなスコールへと視線を合わせる やっぱり言わないとなんないんだろうな 「………お前、以前ガーデンで抗争があったって言っただろ?」 視線をはずしスコールに背を向ける 息を詰める気配が伝わってくる 知り合いの犯罪ってのは、気分がいいものじゃないよな 「………その時の教師の行方、知ってるか?」 さまざまな角度から考えた結果、その可能性が一番強い 「根拠は?」 あ、思ったより冷静みたいだな…… ってよりも、あんまり良く思ってないんだろうな よりによって、ガーデンが危険に晒されている時にくだらない争いを巻き起こした人間の事だ、その人物の事をスコールが良く思っていないからといって不思議はない 「それ以外考えられないってのが根拠だ」 「…………」 スコールへと向き直る ……別に冗談でもなんでもないんだけどな…… 「短時間の内に少ない人数で村人全員を連れ去るなんて事ができる組織は他に考えられない」 状況説明でしか説明できないぞ? 「軍の一部の人間はどうなんだ?」 やっぱりそう来るか、まず始めに軍関係を疑うのはセオリーだな その辺の事はちゃんと考えたさ、だけどな…… 「発見者が、仕事から帰った村人だ、それがあそこにいる彼だ……」 指し示した先には、兵士に細かな指示を出す軍人がいる エスタ内で何かが起こった場合に備えて、エスタに程近い村に住んでいる立派な精神を持った軍人だ 「……………軍内部の犯行なら、彼のいる時間帯を狙う、か?」 多少の危険はあるかもしれないが、その方が確実だな それに、いざとなったら、指揮権を発揮できる人間を軍関係者が見逃すっていうのはあり得ないよな 「短時間での犯行となると、ある一定レベルの訓練を受けた人間という結論がでるのは、解るだろ?」 まて、というようにスコールが手で制す ん?何か変なことでもあったか? 「短時間の犯行の根拠は?」 ……ああ、そこも言ってないのか 「問題の村の特殊性が関係してくるんだ」 どの程度まで話していいんだろうな その辺に落ちていた棒を拾って、地面に簡単な地図を書く 「こんな風に、エスタから近い位置にあるんだ」 村人の年齢構成は話したか? ……シークレット情報は隠さないとな 「………まぁ、血気盛んな若者もいない、ふつうに考えると、戦闘に向いた人間は1人もいないと思ってくれていい」 実際に村人はただの村人で、戦闘手段なんて持ってはいない 「……モンスターに対する防衛は?」 まったく無防備な訳じゃないぞ 「数体のモンスターを防げるだけのシステムは完備されている……もっとも、人間並の知能があったりすると、全く効果はないけどな………」 普通の猛獣避けのシステムを強力にしたたぐいのものだしな 「で、いざというときの防衛手段は、エスタ軍に直通で連絡がとれるようになってるんだ」 近いから出来るシステムだけどな 本当にやばいときには、他にもいろいろ連絡できるらしいけど 「……見過ごした可能性は……」 ラグナは肩をすくめた 「見過ごすようなシステムじゃどうしようもないな」 「……………」 そんな感じで、消去していくと、怪しいのが例のやつらってことなんだけどな 説明を反芻するようにスコールが考え込んでしまう あくまでそういう予測が立つってことなんだからな ……あんまり深刻に考えるなよ…… それに、 「実際の所は、捕まえてみないと解らないけどな……」 作戦に関する事、というのならば必要な事はすでに聞いている、これ以上聞きたいと思う事はない 軍内部の連絡系統や、指揮系統、そういう所に綻びがあるかもしれないが、それは、口だしするような事じゃない それにきっと、そういう事を調べる組織も存在しているだろう 「なら、いいけどな」 座ったままのラグナが下から見上げる 良いとは思っていないといった口調 ?なんだ? 「気になったことは質問しろよ、秘密主義の作戦なんてのは、ろくなことがないからな」 ………………… 別に秘密主義だとは思っていない 作戦を遂行する上で必要な情報……それ以上の情報を貰った スコールは、なんとなく通路の先に視線を向ける 突然ラグナが動く なんだ? ラグナが反応したものの正体がとっさに解らなかった 『動くな……』 声に出さずにそう伝えてくる 人の気配 誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる 気づかなかった ラグナが自分よりも先に気配に気づいていたことが悔しく感じられる 息を潜めて通り過ぎていくのを待つ ……………… 考え事をしていたせい 考え事をしていようが、いまいが、気づくのが遅れたのは事実だ 遠ざかる足音…… 「さて、行くか……」 充分相手が去ったところで、再びラグナは歩き出した スコールは、複雑な思いでその後に続いた |