ラグナは、洞窟をスコールと共に歩いていた 犯罪者達のいる場所からはまだ遠い為か、彼等が立てる音も聞こえない お、ここだな…… 迷わないように印をつけていた壁に“待機”の文字をみつけラグナは立ち止まった ここから先は灯りは使えない やっぱり書いておいて正解だったな 文字がなかったら、ラグナは確実に通り過ぎていた 「ほらっ」 ラグナは、懐から取り出した物をスコールへと投げ渡す 「暗視スコープだと、あんまり役にたたねえけどな」 もう一つ取り出したソレを装着し、灯りを消した ……役には立つか…… 暗く沈んだ闇の中でもスコールが、考える様にして、スコープを見つめたままなのがはっきり見て取れる 「気休めみたいなものだけど、掛けとけ」 たぶん、視界が利くのは、少しは有利な状況を生み出す 珍しく素直に俺の言葉に従ったスコールが納得しかねるとでも言うように首をひねる まぁ、性能自体は、悪くないしな…… 視界の確保って意味では、ちゃんと役にたってるな 問題はそういうことではなく…… 「見るよりも気配を感じ取る方が早いからな」 これを開発したのは、戦士ではないためそう言うことにまで気が回わらない人々 まぁ、目の付け所は間違っていないな 壁につけた印でさえ暗闇の中でもはっきりと見ることができる 軍にも開発部というものがあるが、そこの連中は武器や、工作者が使うような特殊な物を率先して作っている これも、どこかの科学者が売り込みに来た類のものだろう 「さて、しばらく休憩だ」 そう言って、ラグナは岩影に座り込む ちょっとつかれてるなぁ あんまなれない事はするもんじゃないな…… 本番はこれからだが、精神的に疲れた ラグナが得意とするのは、単独の戦闘、先行や偵察といった特殊な役割 緻密な作戦を必要とする集団組織の指揮よりも、自分の手に届く範囲でその時その時の一瞬判断を必要とする作戦を好む ラグナはスコールを見上げた スコールならこういう事も苦痛に感じないかもしれないな 遠くで物音が聞こえる ………そう言えば、まともな説明をしてないよな? 「……聞きたいことがあったら、今のうちだぞ……」 聞きたいと思うことがあるだろ?
説明を求めると迷った末に言ったのがこの言葉だった だが…… それでは、答えになっていない 「まあ、犯罪者っていうよりも、プロの犯罪組織だな」 困ったようにもう一言付け足す プロの犯罪組織? 軍が直々に出て来るような犯罪組織の事は、普通…… 「………テロリストじゃないのか?」 エスタ国内でのラグナの支持率は高い、らしい…… だが、エスタの出身ではないラグナに対して反感を持つ者が存在してもおかしくはない 平和になったこの時に待ちかまえたように行動を起こしたとしても不思議ではない 「そんな大層なものじゃなくって、犯罪者だよ」 大層なもの? 状況を考えずにテロを起こそうとする者が大したものだとは思えないな テロという行為は背定される場合と否定される場合がある そして、今のエスタの状態では、その行為は真っ向から否定されるものだ だが、ラグナの言を信じるならばテロリストではないらしい プロの犯罪組織……プロ? 何を持ってしてプロというのか、スコールには見当がつかない だいたい犯罪のプロってなんの事だ? 「……それで?」 「それでって………」 犯罪者だと強調するならば、犯罪者なのだろう だが、犯罪者だというのならば、この騒ぎは何だ? 村人を誘拐した犯罪者だという事だが、その中に重要な人物でもいたというのだろうか? 「たかが、集団で逃げ込んだ犯罪者を捕まえる為だけに、軍隊なんかを出すのか?」 犯罪者ならば、軍という組織の兵士を使うということは無いだろう もっと、小規模な組織というよりも個人 それに、ラグナが来ている事が事の重大性を示している気がする いくら何でも、ただの犯罪者の為に大統領が全面に出るのは、止めるだろう 納得したとでも言うようにラグナが頷く 「いや、プロだって言っただろ?」 洞窟から出てきた兵士が右手の方へと走り去っていく ……そのプロというのはなんなんだ? ラグナは視線を逸らすように兵士の姿を追う 余計なときにはペラペラと話す癖に、肝心な時にはなかなか話そうとしない 「…………」 多少の苛立ちを込めてラグナを見つめ続ける 「………お前、以前ガーデンで抗争があったって言っただろ?」 背中を向けたラグナが重く口を開いた 抗争? ……マスター派の騒ぎの事か? それがいったい………まさか!? 「………その時の教師の行方、知ってるか?」 教師の行方…… …知らないな…… あの騒ぎの中、彼等の処遇をどうしたのか、スコールは覚えていない そして、ラグナがわざわざそう言った以上は…… 「根拠は?」 彼等がその犯罪者だということなのだろう あり得ない事ではないのかもしれない…… 彼等の実体を知る以前も良い感情は持っていなかった 何よりも金を優先していたのだから、犯罪を犯しても不思議はない 「それ以外考えられないってのが根拠だ」 「…………」 何が言いたいんだ? 説明が下手というレベルの問題ではない気がする 謎掛けをして遊んでいる暇はないんだ…… そう思いながらも、別にラグナがそんなつもりでないことは、解る 「短時間の内に少ない人数で村人全員を連れ去るなんて事ができる組織は他に考えられない」 説明が足りない事を自分で気づいたらしい 「軍の一部の人間はどうなんだ?」 動機を考えなければ、軍というのが、一番可能性の高い組織だ 「発見者が、仕事から帰った村人だ、それがあそこにいる彼だ……」 ラグナが指さした人物は、明らかに位が高いと解る軍人 「……………軍内部の犯行なら、彼のいる時間帯を狙う、か?」 犯行の最中に帰ってくる危険性、そして犯行が確実に発見されるという事実、そうなることを願っているのでなければ彼も巻き込んでしまった方が危険はない 「短時間での犯行となると、ある一定レベルの訓練を受けた人間という結論がでるのは、解るだろ?」 短時間? 続けて話そうとするラグナの言葉を手を上げて制す 「短時間での犯行の根拠は?」 それを知る手がかりがあったという話は聞いていない 「問題の村の特殊性が関係してくるんだ」 ラグナは、解りやすい様にか、棒を拾い上げ簡単な地図を地面に書く エスタを示すのだろう巨大な丸、そのすぐ近くに小さな丸 ………… 他に何かを書く様子がない 「こんな風に、エスタから近い位置にあるんだ」 地面に描かれた二つの丸 書く意味があるのか? 気を取り直して、ラグナの説明を聞く 「………まぁ、血気盛んな若者もいない、ふつうに考えると、戦闘に向いた人間は1人もいないと思ってくれていい」 戦える人間がいない村? 襲いやすそうな村だな 村人の抵抗がないならば、襲いかかる方にとって、これほど都合の良いものはないだろう 全くの無防備、という訳ではないだろうな…… 「……モンスターに対する防衛は?」 人間はともかく、エスタでは、モンスターに襲われる危険性はきわめて高い 「数体のモンスターを防げるだけのシステムは完備されている……もっとも、人間並の知能があったりすると、全く効果はないけどな………」 詳しい事はよくわからないが、単にモンスターを避けるといった類のものだろうか? 村から出るつもりがないのならそれは、それで不便ではないかもしれない 「で、いざというときの防衛手段は、エスタ軍に直通で連絡がとれるようになってるんだ」 連絡を受けて、兵士が駆除に向かう訳か 位置関係からすれば、警備兵を置くより効率のいいシステムかもしれない ……軍が到着するまでに持ちこたえるだけの備えはあるんだろうな…… 「……見過ごした可能性は……」 緊急を告げる連絡を取る暇がなかったというならば短時間だというのも納得できる、だが、もしかしたら、その知らせに気づかなかったという可能性だってある 「見過ごすようなシステムじゃどうしようもないな」 「……………」 確かに、緊急時に連絡がとれないシステムというものは……… そう考えると、短時間で行動を起こせるだけの人間達の仕業というのも頷ける そして……そう言った人間に当てはまる第一容疑者 「実際の所は、捕まえてみないと解らないけどな……」 しばらく考えた後、スコールは、呟くように言った ラグナには、聞きたい事はあるが、聞かないといった感じがする ……本当に聞かなくてもいいのか? 黙り込んだスコールからは、何を知りたかったのか、 伺い知る事はできない 「なら、いいけどな」 本人が何もないと言うならば、何も言えない 座ったままスコールの顔を見詰める 絶対に教えないだろうと思う事でも、聞けば教えてくれる可能性だって、あるんだぞ? SeeDは、“何故?”と問うことをしない 「気になったことは質問しろよ、秘密主義の作戦なんてのは、ろくなことがないからな」 目的を知らされぬままの任務も存在する すべてが終わった後に自分がやった事を知るような、そんな任務…… そんな任務も必要だと言うことは認める …………でも、な………予測を立てる事、独自に内容を調べ上げ身を守る事も覚えないとな…… スコールが通路の先に視線を向けた つられるようにその方向へ神経を向け…… ! ラグナは、素早く立ち上がった 『動くな……』 声に出さずに、スコールへ伝える 人が近づいてくる まだ今の段階で騒ぎを起こすわけには行かない 息を殺し、通り過ぎるのを待つ ……………… 遠ざかる足音…… そろそろ移動してもいいな…… ここで立ち止まっていた時間を考えラグナはそう判断した 「さて、行くか……」 相手の姿が見えなくなった所でラグナはスコールを促し再び歩き出した |