英雄と犯罪者(6 SideL)


 
「村人を無事保護しましたっ」
連絡が飛び込んでくる
洞窟の別の場所から陽動を仕掛けた兵士達が、そのまま、村人の身柄の確保に成功したようだ
順調みたいだな
「ラグナ君、予測通りそちらに向かったようだ」
キロスからの連絡
予想通り、というが、逃げ場がこちらにしかないように罠を仕掛けている
静かに横で待機しているスコールに合図を送る
スコールがゆっくりとガンブレードを構える
ちらっとスコールが視線を向ける
うん?どうかしたのか?
スコールに声を掛ける前に気配が近づいてくる
来たな………
よほど慌てているのか、気配を隠す事も忘れている
続いて、走り来る足音
洞窟に走りくる人間の足音が大きく響く
自分の居場所を教えながら逃げてどうするんだろうな?
それほど慌てているのか、追い付かれたところでどうにかなると思っているのか……
ん?
人間以外の生き物の気配も感じられる
人間の本能が恐怖を告げる
モンスター、か?
モンスター特有の嫌な気配が強くなる
無意識にマシンガンを握りしめようとして、苦笑する
…そうだったなぁ………
今日は愛用の武器をもってきてはいない
ちらっと、スコールの方を見る
右手にしっかりとガンブレードを握り締め、通路の先を見ている
近づいてくる気配が濃厚になる
……気づかれたか……
モンスターの気配が変わる
生物の気配に敏感なモンスターはごまかせなかったらしい
獲物を見つけた猛獣の気配
狩る事を要求する動き
モンスターをけしかける声が聞こえる
モンスターを飼ってるなんて、卑怯だよな
倒すべき生物を飼い慣らしているなんて、誰が見ても悪人だよな
漏れるのは、失笑
甘い蜜の味を忘れる事のできなかった者達
自分達の正当性だとか、新たなガーデンの結成だとか、建前として掲げるべき目的さえも忘れた犯罪者の姿
「モンスター、か……」
飼い慣らしたモンスターで何をするつもりだったのか
嫌な奴らだな
簡単に予想がつく
ん?
「……さがってろ」
いつの間に移動していたのか、スコールが側に立っていた
非難するような目でスコールに睨まれる
……非難される覚えなんてないんだけどな……
スコールが一歩前へ足を踏み出す
……もしかして、かばってくれるのか?
スコールがモンスターへと攻撃を仕掛ける
……嬉しいけどさ……
「息子にかばわれちゃ……」
身をかがめ一気に距離を詰める
おっと
距離を詰めた先にタイミング良くモンスターが現れる
目の前に現れたモンスターを右手に握った短剣で切り裂く
……切れ味いいな………
綺麗に肉が裂けていく
って言うより、切れ味良すぎるんじゃないか?
ちらっと視線を向けると、驚いたような顔をしながら、油断無くモンスターの攻撃を躱している
………単にこんな場所でマシンガン使う訳にもいかないから、武器を変えただけなんだけどな……
それに短剣でモンスターを切り裂けたのは、この短剣自体が不自然な程切れ味が良かった為だ
断末魔の絶叫を上げるモンスターの脇をすり抜ける
人数は、五人!
モンスターの体液を振り払い、一足飛びに間合いを詰める
背後でモンスターが倒れる音がする
迂闊に使えないじゃないかっ
下手に短剣を振るい相手を殺す訳にはいかない
右手の中で、短剣を握り直す
力を込めて、右手を振り下ろす
背後が一瞬明るく照らし出される
鈍い音を立てて、柄の部分が右肩へと食い込む
悲鳴
手加減してやったんだけどな
左手の拳を腹部へと叩き込む
背後で独特の銃声が響く
崩れる体を投げ捨て、右側に回り込んでいた敵に蹴りを叩き込む
力を込めた一撃は、その体を吹き飛ばした
吹き飛んで行く体が、後ろの奴を巻き込んで倒れる

体をひねり、掲げた短剣で、振り下ろされた刃を受け止める
澄んだ音が響く
なんだ、少しはやるじゃないか
偶然だとしても連携を組む事はできるようだ
モンスターの叫び声
最も……
剣を跳ね返し、手首を返し、斬りつける
自分が勝つために相手の隙を狙うのは、当然だけどな
微かな手応え
剣が短い分目測が取りにくい
あんまり切れ味が良すぎるもの考えものだな
普通の短剣と同じように扱うと鋭すぎる刃先が予想以上にダメージを与える
そして、背後に気配
体をひねり、鋭く振り下ろされた一撃をかわす
よろける際に進み出たその足下を払う
体勢を崩した相手の首筋に右肘を振り下ろす
モンスターとの戦闘の音が途絶えた
倒れ込んできた体を蹴り上げる
くぐもった苦痛のうめき
向こうは終わったみたいだな……
「きさまらっ」
仲間を下敷きにした奴が立ち上がって剣を抜く
仲間の体が緩和材となり衝撃はさほど大きくなかったらしい
下敷きにされた方は、岩壁に叩きつけられ、気を失っている
仲間をやられた怒り、じゃないだろうな
ラグナは戦うことによって、仲間意識が希薄な事に気づいた
背後で、立ち上がり襲いかかってくる気配がする
挟み撃ちか、発想は良いんだけどなっ
軽く反動をつけ、背後へと短剣を投げつける
金属が落ちる音
目の前の相手が剣を振りかぶり………
「降伏したらどうだ?」
首筋にスコールのガンブレードの刃が当っていた
状況を把握する能力が足りなかったな
ラグナは、背後の敵へと向き直る
手の空いたスコールが援護に来る事を予測しても良かったはずだ
ラグナが投げた短剣は、右腕を岩壁へと縫い止めていた
声と、灯りが近づいてくる
やっと追いついたみたいだな
「ゲームオーバーってとこか?」
振りかざしていた腕が力無くおろされ、手の中の剣が滑り落ちた
 
 
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