英雄と契約
(作戦会議)


 
遠く神殿の側に群がるモンスターの影
モンスター達の多くは突如として消失し
消失するのを免れたモンスターの大半も神殿の奥へとその姿を消した
残ったのは数体のモンスター
先ほどまで激しく攻撃を仕掛けてきたモンスターは、神殿の周囲でこちらを見つめたまま動かない
不気味な光景
自分は、突如モンスターが襲ってくるのを防ぐためその動向を見守っている
背筋を冷たい汗が流れ落ちる
見張っていたのは数分の間
恐怖心が高まる頃、任務の変更を命じられた

彼は緊張した面もちで、その会談の様子を見守っていた
初めての経験
初の実戦
軍に入隊し、初めて参加した作戦
しかも、この作戦は、大統領が自ら指揮を取る
同期入隊の仲間達にうらやましがられ、そして今、大統領を間近に見ている
そして、噂のSeeD達も、すぐ間近にいる
彼は先ほどとは打って変わってわくわくした気分で、彼等の様子をうかがっていた

静まり返った遺跡の広場で、彼等は情報交換を行っていた
わずかな話し合い
結論が出るのは早かった
SeeD達は、任務でこの場に来たばかりで、情報らしい情報は全く持たず
こちら側は、手がかりとなり得るモノは持っているが、情報というモノは持っていない
「今のところ何も分かっちゃいないってことだな」
あっさりと言い放たれた言葉
――そんなあっさり
「……それで、モンスターだが」
慌てる自分の前で、彼等は何事もなかったかのように話を続ける
「便宜上モンスターと呼ばせて貰うけれど、アレはモンスターじゃないわね」
遠く神殿の近くにいる数体のモンスターへと視線を走らせる
――モンスターじゃないって、化け物ならみんなモンスターじゃないのか?
「そうだな、どちらかと言えばアレはガーディアン……ってところか?」
大統領の言葉に、全員が同意を示す
「ガーディアンが目覚めたのは神殿を荒らされたからで問題ないだろうが、彼等が守っているモノとはなんだろうな?」
からかうような、補佐官の言葉
――それこそ分からないんじゃないか
聞き耳を立てていただけとはいえ、さっきから話を聞いてる自分にも、ソレくらいの事が分かる
この遺跡に関する情報は一切無いのに、一番重要な事が分かるはずなんてないのだ
「生き物なのは確かだな」
「意志のある生命体だ」
同時に発せられた言葉
言ったのは、大統領と、SeeD
言葉には違いがあるものの、言っている内容は同じ……
「……聞こえたのか?」
大統領が静かに問いかける
SeeDは、大統領から視線を外し
「ああ」
と小さく答えた
「えーと、何が聞こえたんですか?」
もう1人のSeeDの言葉
自分は無意識の内に身を乗り出していたらしい
即座に側にいた先輩に肩を掴まれ引き戻される
「おとなしくしていろ」
小声でささやかれる言葉
追い出される様な事は避けたいから、慌てて何度も頷く
ようやく手が離れた、掴まれた肩に痛みが走る
「声が聞こえた」
簡潔すぎるSeeDの言葉
「………スコール君」
ため息混じりの補佐官の声
その隣で、大統領が苦笑しながら頷いていた

SeeDと2人だけで神殿に向かおうとする大統領をもちろん上官達は引き留めた
だが……
「呼ばれた人間が行くのが一番安全だろ?」
神殿の前、そう言って大統領が不適に笑う
―――そんな危険じゃ!
上げようとした声は
「珍しく理に適った意見だ」
重々しく告げる言葉に阻まれた
「そう思うなら問題ないだろ?」
大統領は、そう言い置くと背を向け神殿へと歩き出す
なぜか、上官達は何も言わない
何も言わずに……残されたSeeDの方を見る
「まー、こっちとしても、スコールが行くんだし問題ないと思うけど……」
―――そんな危険じゃ!口から出たと思った言葉は、どうやら声にならなかったらしい
全員の視線が憮然としたSeeDへと集まった
「おーい、おいてくぞー?」
神殿の入り口から、大統領が呼んでいる
ゆっくりとSeeDが振り返る
「……頼むわね」
ものすごくいやそうな顔をして、彼はゆっくりと階段を上っていった

司令官の指示で、神殿の前を離れていく
「後をついていくとか……」
そう訴えた自分に先輩は
「足手まといが行ってどうするんだ」
ため息混じりにそう言った
 

 
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