英雄と契約
(神殿 SideS)


 
ラグナに一歩遅れ、神殿へと足を踏み入れる
入り口から数歩、ラグナが足を止める
その瞬間を待ちかまえていたかの様に、神殿が光に包まれた
足下から伸びていく光の道筋
神殿の奥へと一直線の道ができる
「……この上を通れってことだろうな」
静まり返った神殿にラグナの声が低く響いた
罠かもしれない、そう考えたスコールの目の前で、ラグナがなんの躊躇いもなく歩き出す
「……おい」
別に心配したとか、止めようと思ったとか、そういう訳ではなかったが、気がつけば声をかけていた
ゆっくりとした足取りは止まらない
何かが起きたらどうするつもりなんだ
どなりつけそうになるのを寸前で思いとどまる
俺には関係がない………
今回のクライアントは、ラグナではない
―――言ったところで聞かない
心の奥底を流れる諦めに似た思いには、スコール本人も気がついていない
辺りに注意を払いながら、スコールはラグナの後に続く
何か異変が起きるような気配は感じない
ラグナの足が止まる
反射的に、高ぶる神経が周囲の気配を探っている
…………なんだ?
辺りに異変は感じられない
「なんともないみたいだな」
極限まで張りつめた緊張を解くと同時に聞こえたラグナの声
のんきな声に、いらだちを覚える
まるで散歩にでも向かうかのようなのんびりとした足取り
スコールは足を速め、ラグナを抜き去る
いつ何が起こるかわからない場所で、緊張を解くのは命取りだ
ラグナの様子に微かな不安を抱き、スコールは後ろも見ずに歩き出した

地下へと降りる長い階段
足下からの微かな光が辺りを照らしている
身体を軽い緊張感が覆っている
神殿の中に入ってから、一度も敵に遭遇していない
長い沈黙
いつもうるさい位にぎやかなラグナが一言も言葉を発しない
「……いったいここは何だ?」
なんとなく口をついた言葉
「さあな」
まともな返事を期待していた訳ではないが、ラグナの言葉に反射的に睨みつける
知らないのが当然
………知っている方が問題だ
「起こってみないと分からないだろ?」
小さなつぶやきが聞こえてくる
………その通りだ
もっともな言葉にスコールは僅かに頷いた
 
 

 
 
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