英雄と幻影
(噂 SideL)
エスタから遙か遠い場所で、都の幻が目撃されてから数日
その都は、世界のあちこちに姿を現していた
「ところでラグナ君」
大きく伸びをした瞬間、タイミングを計ったようにキロスがさりげなく声を掛ける
「幻の都が現れるそうだ」
条件反射で、何言われるかと身を竦めたラグナに、そんな言葉が飛び込んでくる
「……あ?」
不意をついた言葉に、意味を理解する事が出来ず、間の抜けた声が上がる
「まさか、知らないのかな?あれだけ話題になっているというのに?」
仕方の無いとでも言うような大袈裟な仕草
話題になってるのか?
「あ、その話聞きましたよ、なんでも、世界各地で目撃されてるとか……」
周囲の職員達が声を上げる
「……へー?」
そりゃ、初耳だ
無言で先を促すと、彼等は次々に自分が知っている事を話し始める
……………
噂話の領域らしい話は、好き勝手な推測が語られている
「……で?」
ラグナは、彼等の話を訊く事を早々に放棄して、キロスへと水を向ける
「現れる場所、時間には全く関連性が無いらしい」
それは判った
「どうやらとても古い時代の建造物らしい」
どっかの遺跡ってやつか?
「幻の中に人の姿が見えたとの報告があるそうだ」
気のせいじゃないのか?
1つ1つ、内容を上げる毎にキロスの立てた指が増えていく
「実在するならば、未だ街として機能しているはず、との意見だ」
もちろん、コレはどこかの学者の意見という事になる
……なんか、怪しくなってきたな
「ここまでは良いかな?」
「いいぜ」
キロスの手が機械を操作する
「現在、エスタに出現中だそうだ」
目の前に、ゆらゆらと揺れる半透明の都の姿が映し出される
「…………………」
ざわめいていた室内が静まりかえる
ああ、こりゃ確かに幻って感じだな
「それで、ラグナ君」
苦笑の滲んだ声に、視線を向ける
「どうしましょう?との事だ」
石造りの幻が揺らぐ
好奇心に負けたのか、青年が一人近づきすり抜けていく
「どうにか出来るものなのか?」
彼の無事な姿に安堵のため息が漏れた
次へ その頃のスコール
|