英雄と幻影
(夢)


 
海を渡って来た風が草木を揺らす
強い風に流される雲と
泣き出しそうな空
不安定な天気の中、古めかしい庭園を歩く人影
道の両脇に咲いた花々を覗き込みながら楽しげに行く
その数メートル後方に影がもう二つ
一定の距離を置き後を追う
不意に吹き抜ける突風に、先を行く少女の髪が舞い上がる
絡まる髪を押さえようと伸ばされる右手
空が急激に陰り始める
視線が、引き寄せられる様に空へ向かう
激しく吹き荒れる風に、後方にいた二人が慌てて近づいてくる
二言、三言交わされる言葉
少女の視線は引きつけられる様に空を見つめている
促す様に少女へと触れる腕
前触れもなく、空に一筋の閃光が走る
続いて起きる光の爆発
世界が真っ白く染まる
白い世界の中で、立ちつくす3人の姿だけがくっきりと浮かび上がっている
渦を巻く風に舞い上がる花びら
美しくも、どこか恐ろしげな光景
少女の身体を庇うように、女性が腕の中へと抱き寄せる
不意に訪れる静寂
ポツリ、ポツリと空から水滴が落ちる
赤く、赤い雨
男が顔を強張らせ、剣を抜き放つ
少女の視線は、空へと向けられたまま
空にはぽっかりと空いた黒い穴
見据えられた視線の先で、穴の中からゆっくりと巨大な生き物が顔を覗かせる
庇い、引き寄せ避難させようとする女性の腕を少女は振り払う
ぐらり、と上空の生き物が体勢を崩す
大地を揺るがす激しい震動
瞬きをする程の僅かな時間を置いて地面へと落ちた
倒れそうな身体が強い腕に支えられる
激しく舞い上がる土煙の向こう、傷つき血を流す生き物の姿
苦しげな様子
駆け寄りかけた少女の腕が強く引かれる
少女を背に庇うように間に割り込む男の姿
引き止めた女性へ、少女が抗議の声を上げる
険しい表情
「―――――」
引き止める腕を振り払い、少女が側へと走り寄る
大きな体へと触れた手が血に濡れた

白く輝く月が見える
少女の顔を彩る絶望
飲み込むように広がる巨大な暗闇
大きく見開かれた目
彼女の口が悲鳴を上げる
声に驚いたのか、月を背後に鳥が羽ばたいていく
甲高い悲鳴が耳の奧に反響した
  

 
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