英雄と幻影
(予感 SideL)


 
暗闇の中、ラグナは唐突に目を開いた
右手が宙へ高く突き出されている
身体のあちこちが強張っている
ふっと力が抜け、上げたままの腕が落ちる
―――夢?
強張りを解きながら、ゆっくりとベッドの上へ身を起こした
「妙な夢見ちまったぜ」
細く息を吐き出し、手荒く髪をかき混ぜる
暗い室内に時計の音が響く
次第に暗闇に慣れた目が、時計の文字を追う
―――深夜三時
眠りについてから数時間
何もなければ決して目が覚めたりしない時間だ
…………
何か落ち着かない気分で、視線が辺りを彷徨う
神経のどこかが違和感を感じている
夜の空気が身体に触れる
カーテンの隙間から光が射し込んでいる
不自然な程の明るさ
灯りを消し忘れたか?
冷えた床へと足を降ろす
それとも、なんか事件でも起きたか?
そんな気配はしないけどな
窓辺へと近より、閉ざされていたカーテンを勢いよく引き開ける
まぶしい程に輝きを放つ月の光にラグナは目を細める
降り注ぐ月の光に照らされた庭におかしな所は見当たらない
おかしいっていやぁ
ラグナは空に浮かぶ月を見上げる
白い月の輝き
およそ月明かりとは思えない強すぎる光
月がおかしな輝きを放っている
また何か起こるって言うのか?
月はモンスターが住む世界
些細な事であったとしても、月に生じた異変
何かの前触れかも知れない
「まさか、月の涙ってわけじゃねーだろうけど……」
本来の周期とは別の所で起きたとはいえ、ついこの間終わったばかりの事が短い期間で起きるとは考え難い
月の涙が起こるとは考えたくない
夜の闇を照らす眩しすぎる光は、どこか不吉なものを感じさせる
「何もおこらなきゃいいけどな……」
こぼれ落ちた言葉が冷たい夜の空気に吸い取られる
上空の月が、不吉な輝きを放った気がした 
 
 
 
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