英雄と幻影
(出現)


 
海上へと突如現れはじめた小さな島
薄ぼんやりとしていたソレは、日を重ねる毎に存在感を増していく
海上に漂うだけの幻は、現実味を帯びてくる
出現に伴いどこからともなく漂い始めた濃い霧の存在
立ちこめる霧の中に、幻の様にそれは浮かび上がった
光に彩られた美しい都
現実感の乏しい夢の様な光景
不自然な現実に近隣の村人は良くないものを感じ、眉を潜める
次第に変わっていく潮の流れ、風の通り道
そして、良くない噂が囁かれ始める頃
立ちこめていた霧が不意に消える
後に残されていたのは、古い都を有した小島が一つ
世界中で目撃され続けた都の姿があった

今までの過程からも、出現の仕方からしても、正常なモノでは無い事は火を見るより明らか
村人は当然の様にその存在を無いモノとして扱っていた
数日後、実体化した都を調べようと、各国の学者達がこぞって訪れた
光の中に美しく浮かび上がる建物達
都を囲う外壁に刻まれた彫刻
遠目にも、色とりどりの細やかな装飾が見て取れる
学者達が口々に上げる賛美の声に
「きっとろくなものじゃない」
彼等は背を向ける
次々と幻の都を見ようと人々が集まり、小さな村は人々で賑わい始めた
そして、学者達が島へと乗り込んでいく
都の外観を興奮した口調で語る学者達を冷ややかな視線で見つめる
「あれは、良くない」
意見を翻さない彼等に非難の声が出始める頃
学者達の間から、悲痛な声が上がった
 

 
 
ラグナサイドへ スコールサイドへ