英雄と幻影
(依頼 SideL)


 
―――我が使い手よ
     頼みがある

報告を受けている最中、脳裏に声が響いた
不意に、目の前に藍色の世界が広がる
むき出しのままの自然の景色
見えていた世界が一変する
執務室に居た筈なんだけどな
……夢か?
ラグナはきょろきょろと辺りを見回す
それにしちゃあ………
見上げた空に、巨大な影
……うん?
次第に近づき、目の前に落ちる
巨大な影を見上げ
「精神世界ってやつか?」
ラグナは、その存在へと問いかける
「そんな所だ」
目の前のG.F.が膝を折り身を屈める
「一つ頼みたい事がある」
真摯な瞳がまっすぐに向けられる
「頼み?」
G.F.が頼み?
「そうだ、今回の件ばかりは、そなた達の手を借りなければならない」
声から感じられるのは、苦悩と躊躇い
G.F.が人の手を借りなければならない様な事だってんなら……
「そりゃ、俺で出来る事なら協力するけどよ?」
“達”ってところが、引っかかるっていえば引っかかるんだけどな
「そなた達が先ほどまで話していた件だ」
G.F.の巨体が、微かに震える
話してたってーと
どこかおぼろげな記憶の中にようやく浮かび上がるのは、実体化したという幻影の事
とても普通の事とは言えない現象
ラグナの顔つきが真剣なものに変わる
「都の事か」
―――幻影の都
「そうだ、その地に棲む者を余さず滅ぼして欲しい」
重く告げられる言葉
………………
どこか遠く、鐘の音が聞こえる
悲しみ嘆く声が聞こえる
「聞くぜ?」
こんな時のお決まりの台詞ってやつ
「あちらにはすでに聞かれた」
G.F.の口元に笑みらしきものが浮かぶ
「なら教えて貰えるんだろう?」
考え込むように、目が閉じられる
「我等の恥辱となると言っても無駄であろうな……」
視線で、話を促す
「人の記憶からは、消えてしまった遙か過去の物語だ」
声が低く響いた
 

 
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