(都)
目に見える世界に鮮やかな色がつく 遠く、ぼんやりと見える風景 蒼い海、緑の大地、青い空 外側の光景がゆっくりと移り変わる ガラスに手を置いたまま、彼女は身動き一つせずにその光景を見つめている 眩しく暖かな日差し 肌を撫でる風の匂い 心臓が一つ大きく脈打つ 目の前の光景から魅入られたように目を離す事が出来ない すぐそこにある優しい世界 遠くを歩く人の姿 とうの昔に忘れていたはずの世界 風景を目にしただけだというのに、こんなにもはっきりと思い出す事が出来る 魅入られたように見つめる彼女の背後に気配が生じる 付き従うように立つ2つの影 ただ2人だけの彼女の従者 「………時が……」 かすれた細い声 どこかぎこちない話し方 そういえば彼女の声を最後に聞いたのはいつの事だっただろう どこかボンヤリとした思考は、答えを探し出せない きっと、覚えている事も出来ない程昔の事 長い間待ち望んでいた時間が近づいてくる 切り離された世界と、もうすぐ重なる 力を入れた右手が、ガラスに爪を立てる 神経に触れる音が高く響く 背後で、2人が一礼する 彼女の返事を待つ迄もなく、身を翻し歩き去っていく ガラスに映る後ろ姿 幾度か見た光景 開いた扉の向こうで、彼等が、それぞれの武器を手に取るのが見える その度に叶わなかった願い 音も立てずに扉が閉じる 「今度こそ……」 小さくつぶやかれた言葉が、力無くガラスを揺らした |