英雄と幻影
(準備 SideL)


 
私室のいちばん奧、隠し戸の中
隠し扉の内側の2重扉の奧
厳重かつ巧妙に隠されたその場所で
「今回ばっかりは、な」
張り巡らされたセキュリティーを解除し、ラグナは古びた箱を取り出す
なまじの武器では太刀打ちできそうも無いんだよな
古びた鍵が開けられる
収められていたのは、長剣と短剣の2つ
「どうもG.F.の感覚はずれてっからなぁ」
淡い光を放つ2種の剣を無造作に掴み上げる
セントラが現役で繁栄していた頃の技術はその大半が失われている
真っ正面から喧嘩を売れば、技術的な面でかなりの差が出る
最終的には力量ってのは理解出来るけどな
それだけでは限界がある
ひんやりと冷えた金属の感触
現代では、真似る事の出来ない技法、失われた時代の武器
「なぁ、……頼むぜ?」
異質な光沢を放つ剣へと声を掛ける
1つだけ残された剣
同じセントラの遺産なら、コイツなら、問題なく渡り合える筈だ
隠し戸を元の状態に戻すと、G.F.の剣と共に長剣を腰に履き装備を整える
「んじゃ、まあ、行くか」
軽く肩を回し、散歩にでも行くような軽い足取りで、ラグナは出かけていった

―――ちよっと出かけてくる
机の上には、そう書かれたメモ帳が一つ
それだけを残して、ラグナは誰にも何も告げずに何処かへと姿を消した
メモを見つけた秘書官達は頭を抱え
次いで下を向いて、重くため息を吐いた
メモが発見されてから、すぐさま探索の手が国内のあちこちに伸びたが、発見することは出来なかった
「ちょっとって、何処まで行ったんでしょうね」
「さて、だがそのうち帰ってくるだろう」
小さな騒ぎの後、さりげないやり取りが交わされ、エスタ大統領府は何事も無かったかの様に日常を刻み続けた

G.F.の願いを聞いて数日
セントラの端に位置する小さな村で待つ事1日
「よっ」
ラグナは現れたスコールに声を掛けた
「……………」
強い視線がラグナに注がれる
「スコール?」
じっと見つめ返すと、スコールは諦めたように視線を逸らす
「んじゃ、今後の打ち合わせでも始めようぜ?」
半ば強引に肩を抱き、村はずれへ向けて歩き出した
 

 
 
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