英雄と幻影
(侵入)
上陸した土地は、思ったよりも大きかった
自分達の事で手一杯らしい学者達は、二人の事には全く注意を払っていない
「……まぁ、有り難い状況なんだろうけとよ」
人の目を気にする必要も無いみたいだし
呟くラグナの横で、スコールが何とも言い難い表情をしている
それでも念を入れ、人気のない所まで移動する
「って事で、だ……」
人の来そうにない場所まで移動し、念のため、暫くその場で待機し誰も来ない事を確認した
「本当なら此処で、手順の打ち合わせなんかをしたい所なんだけどな……」
ラグナの目が困ったように細められる
「情報が無いものは仕方がない」
中に入らなければ実際の状況も判らない上
そもそも、無事に目的地に辿り付ける保証だって無い
今回ばかりは、やってみなければ何も判らない
「ま、その時の状況次第だな」
そう言いながら、ラグナが一振りの剣を右手に差し出す
何の真似だ?
視線で問いかける
「いや、今日のお前の武器」
思わずラグナの手に握られた細身の剣をじっくりと眺める
一度だけ見た事のあるG.F.のとの契約に使われたらしい剣
それは、ラグナの武器だろう、それにガンブレードは持ってきている
「………必要ない」
どういうつもりかは知らないが、別にそんなモノを使う必要はない
「いや、必要ないって……」
言葉を言いかけて、何かに気付いた様に口を閉じる
何だって言うんだ?
「いや、ガンブレードは使い物にならないかも知れないって、聞いてないな?」
使えない?
ラグナが大袈裟に天を仰いで見せる
ぶつぶつと何事かを呟いている
どういう事かと、問いただそうとしたタイミングを待っていたかのように
「細かい原因とかそういうのは説明しないぞ」
ラグナが言葉を続ける
「っていうか、聞かれても良くわからねーし」
スコールは黙ったまま、ラグナが話しを続けるのを待つ
「つまり、な……」
この都は、外的要因から中の住人を守る為にあると言える
その辺りの事は、G.F.の話から容易に推測できる
そして、その外的要因の中にはどうやら人間って奴も含まれている
人であれば誰でも入れるっていうんなら、こんな苦労は無い
ある一定の制約があるからこそ、中に入ろうとじたばたしてる学者がごろごろ存在するって訳だ
G.F.は詳しい事を語った訳じゃないが、幾度か、中へと入った人間は存在する
そして、彼等が見聞きした事はG.F.に伝わってる
その辺りを踏まえれば考えられる事は一つじゃないか?
G.F.には手出しする事が出来ない
けれど、同じように何の力も持たない人間もまた手出しすることは出来ない
つまり、特別な力を持っている事が最低限の条件って奴だ
これが正解だとするなら武器はどうなる?
武器ってやつは、害を与えるモノだ
排除しようとする力が働いた所で何らおかしくはない
危険を冒す位なら、初めから手を打った方が良い
つまりそういう事だ
大体の所をまくし立て、スコールへと剣を押しつける
「あんたは?」
じっと剣を見つめたままスコールが問いかける
うん?
「あんたはどうするんだ?」
ラグナは右手を差し出したまま左手でもう一つの剣を引き出す
「俺はこっちな」
「………………」
改めて剣を差し出す
じっと二つの剣を見比べて、ようやく手を伸ばし、ラグナの右手に握られた剣を受け取る
剣を握り、感触を確かめる様に軽く振る
「あ、それと……」
都へと足を歩きだしたスコールの背中に声を掛ける
「多分、そいつは中では特別な使い方は出来なくなると思うぜ?」
ゆっくりと足を進め、立ち止まったスコールの横をすり抜ける
「G.F.の力は制約されるみたいだからさ」
背後でスコールが何か言いかけたのに気付いたが、ラグナは立ち止まる事無く、都の敷地へと足を踏み入れた
数十秒の間を置き、スコールが慌てたように後を追った
ラグナサイドへ スコールサイドヘ
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