英雄と幻影
(偽りの都 SideS)


 
スコールは、目を開いた
開いた瞳に映るのは暗闇
もう一度目を閉じ、開ける
紗幕に覆われた様な空
淡くぼんやりと射す光
身を起こしたスコールの手の下で、砂が流れ落ちる
美しく彩られていた光景は消失している
辺りに広がる遺跡
幾度か見たセントラの遺跡よりも、崩壊の激しい滅びた都
理由は判らない迄も、尋常で無い事は判る
間近で見た来た者達は、こんな光景が広がっている事を一言も口にしなかった
嘘を言っていた訳じゃない
彼等はこの世界に足を踏み入れる事が出来なかった
つまりは、そう言う事なんだろう
スコールは立ち上がり、中心に見える建物へ向かい足を踏み出す
中心にあるのは、一つだけ無事に残った建物の姿
嫌な空気が辺りに満ちている
そう言えば……
先を行った筈のラグナの姿が見えない
先に行ったのか?
不意に浮かんだ考えはすぐさま否定される
きっと、この状況でラグナが、一人先に行く事は無い
本人には決していうつもりは無いが、ソレくらいは信用している
つまりは、違う場所に辿り着いたという事なんだろう
まるで天窓から降り注ぐかのように、どこからともなく光が射し込んで来る
降り注ぐ光の中に足を踏み入れる
笑いながら駆け抜けていく子供の姿
一歩足を踏み出す毎に
平和な光景が透けて見える
耳に聞こえ始める、街のざわめき
次第に強くなる、人々の声
―――幻聴
まるで、スコールの決意を引き止めようとするように
どこまでも楽しげに続く世界
励ますような、勇気づけるような想いが流れ込んでくる
辺りに散らばる幻が色あせていく
持ってきた筈のガンブレードが消えている事はとっくに気付いている
ラグナから無理矢理押しつけられたG.F.の剣が脈打つ様に音を立てる
扱い慣れたソレとは違った軽さ
『どこまで有効かは判らないけどな……』
G.F.の力が阻まれるという空間では、特異な力は使えない
………別に問題はないな
今までの戦闘でも特別な力に頼っていた訳ではない
むしろ、突然そんな力を使えと言われる方が困る
やけに軽い剣を右手に持ちまっすぐ前を見て歩く
歩き続けるスコールの身体に纏わりつく光の粒子
幻を浮き立たせる光が邪魔だ
無造作に、剣を薙ぐ
それに合わせるように光が翳りを帯びた
 
 
 
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