英雄と幻影
(決着 SideL)


 
それは、ほんの一瞬の出来事
ラグナの手から放たれた短剣が彼女の胸を貫いていた
彼女の手から錫杖がこぼれ落ちる
神妙な面持ちで近づくラグナを見上げる
微かに動く口が言葉を伝える
「…………お願いします」
口元へと寄せた耳に聞こえた言葉
ラグナは彼女へと頷いて見せる
無表情だった彼女の顔に穏やかな笑みが浮かぶ
そして、どこからとも無く吹き付ける強い風に
彼女の身体が、砂が風に吹かれるかの様に解けていく
塵一つ残らない身体は、気の遠くなるような年月を過ごした代償
「望んだ訳じゃなかったのにな」
誰も居ない空間に、ラグナの声が悲しく響く
永遠の生を、果てのない時間を望んでいた訳では無いのにな
抜き身のままの剣を収め
ただ一つ残った錫杖を取り上げる
触れた瞬間ビリッとした痛みが走る
契約者以外が触れた代償だろうか?
軽く頭を振り、沸き上がる感情を振り払ってラグナは立ち上がり、館を見上げる
空に広がる翳り
世界を照らす光が次第に弱まっている
「こんどこそ終わりにしてやるよ」
この世界の主の元へと再び歩き始める
 
  
 
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