英雄と幻影
(決着 SideS)


 
澱んだ世界に一陣の風が吹き抜けた
その一瞬、彼が風に驚いた様な反応を見せた瞬間、決着はついた
彼の手から折れた剣がこぼれ落ちる
切り裂いた筈の感触に、スコールは目を見張る
今のは………
視線が、ゆっくりと彼の元へと移動する
折れた剣を無感情に見下ろし立ちつくす姿
深く切り裂かれ胸元
切り裂かれた皮膚の内側に見えるのは暗闇
一筋の血も流れ落ちない
とうの昔に終わってしまった命
引きつけられた視線を離す事が出来ない
スコールの視線に気付いたのか、彼がゆっくりと視線を上げる
彼の足下にある剣がゆっくりと消えていく
「……………」
彼の唇がゆっくりと動く
小さく聞こえる言葉らしき音の羅列
「……何?」
理解出来ない言葉
強い風が吹き抜ける
風にさらわれる様に、彼の身体が消えていく
消え去る寸前、不自然なほど穏やかな笑みが浮かべた
まるで初めから存在しなかったかの様に、風が通り過ぎた後には何も残らない
緩く首を振り、空を見上げる
視線の先、館に小さな灯りが灯る
誘いかける様な光に向かい、足を進めた
 
 
 
 
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