英雄と人形
(報告書 SideL)


 
普通ならば、何という事はない様な些細な報告
『頑張ってるんだな』もしくは『大変だな』という感想を抱くだけの報告
―――モンスターの討伐
付近を彷徨うモンスターを倒すのは可笑しい事じゃない
身を守る必要からすればごく当たり前の事だ
勿論自分達の手に負えなければ、早急に討伐要請が近くの部隊に出される
こういった要請は、緊急である事が殆どなので、各部隊の責任において討伐に赴く事が許可されている
―――討伐に出る前に本隊に連絡を入れる事にはなっているが、本隊から連絡が返る頃には交戦中、もしは討伐が終了している事も多い
腕に覚えのある者なら、モンスターと遭遇すれば勝手に戦いを始めるだろうし
移動中の部隊がモンスターと遭遇して、やむを得ず戦闘を始める場合もある
もちろん、その殆どは戦闘が始まれば、始まった時点で周囲への警告が出される事になるが、時折だす暇が無い事もある
実際に1人で相手しなきゃなんねーと、警告出してる暇がねーし
手にしたペンが。書類の束を軽く弾く
この報告の奴が数人単位の奴ならまあ、それなりに在る事だし、それほど問題じゃ無い
頻繁にではないが、腕を磨く為にモンスター退治をして廻る奴等が居ない事も無い
だが、撮影された映像を見る限り、個人的な訓練とはとても言えない人数が映っている
大規模な戦闘訓練の申請を受けた覚えも無ければ命じた覚えもない
その上、命令を乱すことなく攻撃を仕掛ける様子は、彼等が組織だった者である事を示している
彼等がエスタ軍兵士では無い事は一目瞭然
軍の他に、エスタには荒事の請負を売りにした民間企業も存在しない上、民間で唯一国内に場所の提供を求めて来るガーデンからは、必ず連絡が入れられる
此処に居る事自体が可笑しい存在
一定の間隔で紙を弾く音が響く
「少し調査する必要があるよなぁ」
弾かれ続けた紙が、くしゃりと頼りなく折れた

エスタ国民には該当すると思われる人物のデータは無し
エスタ入国データは現在照合中
ただし、正規ルート以外のルートにて入国の可能性も在るため、該当の人物が見つからない可能性も否定出来ない
現在国内から、同様の組織と思われる集団の目撃情報が他に数件有り
何れの場合も、人気の無い場所でモンスターを相手にしている事が多い
また、モンスターとの戦闘終了後、モンスターを捕獲し連れ帰ったとの目撃情報も寄せられている
推測に過ぎないが、現時点に置いて彼等の興味はモンスターのみにあり、人に対して攻撃を加える意思は無いと思われる
理由としては、目撃された事に気付くとモンスターを放置し、早々に立ち去る事が大きい
コレは、目的を悟られたくないが故の行動と予想される
―――何れにしても現時点に置いては彼等の目的は不明

「進展が有るのか無いのか解らない調査書だな」
『推測の材料に位はなるんじゃないか?』
俺は“正規ルート以外での入国”って奴の方が気になるぜ
「それよりも、重要なのはこの“無傷で捕らえなければ意味がない”という言葉だと思うが?」
そう言っていたのが聞こえたという報告
聞いたのは1人だけだが、確かにこの言葉が本当なら重要な手がかりにはなる
「無傷で、か」
攻撃され、凶暴さが高まったモンスターを相手にそんな芸当が出来るのはそうそう居ない
『普通に思い付くならSeeDだな』
「SeeDは金さえ払えば依頼を受ける、と思われているな」
本気で無傷で捕らえるなんて思ってるんならそうなるよな
「………バラムガーデンに連絡するか」
情報を提供しろって訳にも行かないからな、ここはやっぱり“依頼”だろうな
依頼の内容を考えながら、ラグナはガーデンと連絡をとった
 

 
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