英雄と人形
(戦闘 SideL)


 
通路を進むに従い、何か寒々とした空気が流れこんでくる
先ほど通路に並んだ部屋を調べていた兵士にそれとなく聞いたが、彼等は特に何も感じては居ない様だ
実際に室温が下がったと言うのならば、人間のみならず、計器が反応を示す
体感温度が下がったと言うわけでは無い
空気に潜む何かが、寒さとして伝えている
……なんか、居るみたいだな
長く伸びた通路の終点、眼の前に現れた巨大な扉
その中で、何かが蠢く気配がする
……人じゃねぇな
感じ取れるのは人よりも巨大な気配
……モンスターって感じでもないが……
生き物の気配は気迫だ
何より、この先にいるのがモンスターだというのなら、独特の凶暴な殺意を感じるはず……
なんかの機械ってところか?
無害なモノなら良いが、この先にあるのが何かの弾みで作動した、戦闘機械の類だとやっかいだ
手の中の剣へと手を添える
ま、なんとかなるか
案外気楽にラグナは部屋の中へと進んだ

目前に迫ったモンスターの群れ
慌てるでも無く、伺うでもなく乱れの無い足取りで距離を置きモンスターが動く
系統だって歩くモンスターってのは、思ったよりも不気味だ
モンスターの種族に統一性は無い
モンスターの凶暴さも、生息地も関連性がない
ゆっくりと引き抜いた剣を構える
此処までモンスターに関連が無いと、何らかの理由でモンスター同士が手を組んだとは考えられない
室内へ入ると同時に、扉の向こうへと消えていった男の背中
どうやら、モンスターを操れるっていうのは事実みたいだな
周囲を取り囲む様に展開し、タイミングを計るモンスターの姿
およそモンスターとは思えない行動の数々
逃げ出す前に命令を与えたのか……
モンスターの輪が徐々に狭まっていく
僅かに息を吐き出し、慎重に辺りの様子を伺う
生命力の希薄なモンスター達の気配
様子を伺う様に、眼の前のモンスターがゆっくりと前足を振り上げる
どこかぎこちないその動きを避け、思うよりも早く動いた腕がモンスターを切り裂く
辺りに散る、濃厚な血の臭い
戦闘へと向けて反射的に高まっていく心
………何?
周囲を取り囲んだモンスターは、微動だにしない
この状況なら、一斉に攻撃を仕掛けるには絶好の機会のはず
モンスターの凶暴性を煽る筈の血の臭い
戦闘に不慣れな人間が命令をしていると仮定したとしても、辺りに広がる血の臭いにモンスターが気を引かれない筈はない
沈黙を守ったまま、包囲を崩さないモンスターの姿
それだけ命令が深く浸透しているという事か?
それとも………
存在の希薄なモンスター
ぎこちなく思える鈍い動き
封じ込まれた本能
不意に、不安定に揺らいだ気配
―――来るか?
わざとつくった隙
コレで乗らなかったら、多分こいつ等は………
辺りを取り囲んだ十数体のモンスターを見据え、張りつめていた精神を緩める
油断無く構えられた剣
真剣にモンスターと対峙する姿
形だけをソレらしく見せた偽り
モンスター達の動きに変化は無い
モンスターの形をしているだけか
「失敗したな」
これは命令を聞き、操る事が出来るとは到底言えない
2重、3重に辺りを取り巻いたモンスター達
手に持った剣では、モンスターを排除するのに時間が掛かる
このまま放置しても問題は無い気がするが、何時正気に戻るかわからないか
本能が戻ったモンスターの群れの中に兵士達が辿り着くような事があったら危険だ
時間は取られるが、まあ仕方無いな
微かな笑みを浮かべ、のそりと動くモンスターの中へと剣を構え飛び込んでいった
 

 
 
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