英雄と人形
(システム SideS)


 
この古い施設の周囲にはさりげなく人員が配置されている
もし、追いつく事が出来なかったとしても、彼等が逃がす事は無い
能力的にも危険な人物は潜んではいない
そういった事を考えれば特に追う必要も無い相手
普通なら、そのまま放置してもよさそうだが
―――嫌な感じがする
この施設に何が眠っているのか知っている訳ではないが、逃げ出した男が施設の奧へと移動していくのか気に掛かる
追いつめられた人間が取る行動は大概決まっている
この場合考えられるのは2つ程
追いつめられ逆上するか
それでも尚逃げ道を探すか
特殊な脱出口があるならともかく、この先に逃げた所で逃げ切れる筈がない
……何か隠している
長くは無い人生経験の中で磨かれた勘が告げる
生き物の気配のしない長い通路
湿った空気がまとわりつく
前方を走る鈍い足音が次第に近づいてくる
何をする気だ?
スコールが近づいている事は気付いてるいる筈なのに、後ろを気にする事もなくただ必死で走っている
ただの逃げ道ならそれで良いが、此処はセントラの施設
過去には大したものでは無くても、現在では脅威になるものが眠っているのかもしれない
不意に空気が震える
遠く聞こえた何かの震動
機械のうなる音が聞こえてくる
ぽっかりと大きく開いた壁の扉
巨大な機械と、しがみつくように操作する男の姿が見えた

ヒステリックな笑い声がこだまする
男の背後には、液体を満たした巨大な円柱
水音が聞こえる
排出される水の音
薄暗い部屋に次々と灯る明かり
一つ大きく機械が音を上げ、筒が開閉していく
何処か壊れた様に笑い声を上げる男からは、中身が何なのか知る事は出来ない
だが、勝ち誇ったような態度から
二度と使えぬよう男の手で破壊された装置から
歓迎出来ないモノが出てくる事は確かだ
ゆっくりと開いて行く筒の中で、何かが蠢く気配がする
引きずる様な音を立てて、裂け目から何かが這い出してくる
スコールはガンブレードを油断無く構え、次第に姿を現す存在を待つ
眼に見えたのは濁った蒼
どろりとした液体を滴らせた、腕
ずるりと音を立て、人に似た体がこぼれ落ちる
表面に施された金属のの輝きは、コレが人の手によって造られた事を教えている
スコールの数倍の大きさをしたそれが、ゆっくりと立ち上がる
―――機械兵
エスタで見た実験段階のソレとは趣がまるで違っているが、微かに聞こえる機械音や、小さく点滅を繰り返す光がこれが機械だと告げている
「実験の邪魔をする侵入者を排除しろ!」
悲鳴の様な声が命じる
機械兵がゆっくりとした動作で、辺りを見回す
動きが止まるとほぼ同時に、放出される赤い光を反射的に身を捻り、避ける
高電子音が2、3度鳴る
「認識しました」
ざらついた声が告げる
そして
「何をする!」
………………
視界に映った光景にスコールは眼を見張った
騒ぎ立てる男の姿と当然の様に男をつまみ上げた機械兵の姿
………侵入者、か
この施設を無断で利用しているという点では、確かに自分も彼も変わらない
機械兵の行動は間違っている訳ではない
扉の外側へと機械兵がゆっくりと移動していく
ガンブレードを構えたまま、機械兵の動きを見送っていたスコールの前で唐突に動きが止まる
………!
何処が気が抜け機械兵の動きを受諾しそうになり、慌てて気を引き締める
ゆっくりと伸びた腕
後方に下がり距離を置いたスコールへいっぱいに伸ばされ、突如手首がはじき出される
手首と腕を銀色のワイヤーが繋ぐ
伸びた腕がスコールへ掴み掛かる
掌へと伝わる重い手応え
切り落とすはずのワイヤーが、ガンブレードの刃を阻む
ガンブレードの勢いに絡まりかけたワイヤーを、刃を振り下ろしとっさに回避する
機械兵が振り上げた腕の中へと分離した手首が収納される
「警告します」
赤く繰り返される点滅
退去と、武器の放棄を求める警告
攻撃のタイミングを探るスコールの耳に
遠くから何かが近づいてくる音が聞こえる
新手か?
向きを完全に変えた機械兵が近づく中、次第に大きくなる音
新たな敵が現れる前になんらかの手を打たなければ不利になる
身体を落とし体勢を整えたスコールの眼の前で、機械兵が手の中の男を廊下へと投げだす
ゆったりと動いていた機械兵が突如スピードを変える
鞭のようにしなりを上げる腕
開いていた距離が一呼吸後には間近まで狭められる
くっ
反射的に動く身体がガンブレードを振り下ろす
金属音と共に、小さく火花が散る
しびれが走る程の衝撃と、はじき返される感覚
スコールを捕らえようと左右から伸びた腕をかいくぐり、機械兵の攻撃を避けて場所を変える
頑丈に覆われた金属は切り裂く事が出来ない
うなりを上げて繰り出された攻撃が、背後の壁に傷をつける
機械に有効な攻撃は………
昔たたきこまれた戦闘の基本は、機械を流れる電流に干渉する手段として水系の攻撃を推奨していたが、液体の中へと保管されていたこの機械兵が相手では効果が有りそうにもない
けれど、物理的な攻撃は効きそうも無い以上、魔法を試すのは筋が通っている
ガンブレードを収め魔法を発動させる為、スコールは機械兵の手の届かない上空へ小さな足場を伝い移動する
機械兵を見下ろす位置で目を閉じる
精神集中させる
声に出さない呼び声
異空間から馴染みのある気配が近づいてくる
―――召喚
開いた目に、凍り付くような氷原の幻が映る
中空に佇むG.F.の姿
シヴァの力が発動した
 

 
 
次へ ラグナサイドへ