英雄と魔法生物
(方針)


 
「原因はモンスターってことだな」
報告が一区切りついた所でラグナが口を挟む
嵐を引き起こしていたのは1匹の巨大なモンスター
異常な気象現象は、モンスターの手による魔法
現場に現れていた動く小島の正体は、巨大なモンスターの身体
導き出された結論に人々の口からため息が零れる
「まぁそうなると、対策としてはモンスター退治って事になるんだろうな」
別に突如現れたモンスターを退治に行くなんていうのは珍しい仕事じゃない
エスタの役人達が引きつった笑みを浮かべている
―――お互いに
―――モンスター退治は数をこなしている
「そういうことになるだろうな」
スコールは出揃ったデータへと目を走らせる
ここに示された情報からは、その線が最もあり得そうに見える
だが、事件を引き起こしているモンスターは、新種なのか、突然変異なのか、どちらにしろ見たことも無いモンスターなのは確かだ
まぁ、この辺りの事は大して問題じゃない
モンスターの特色に関するデータがあればあるにこした事は無いが、だからといって戦えなくなるわけじゃない
特にSeeDなら問題は無い
一つ問題があるとすれば、モンスターの存在場所が海の中だと言うことか………
それぞれ対策でも考えているのか、押し黙った人々を見つめながらゆっくりとラグナが口を開く
気をつけなければならないのは、如何に納得させる事ができるかどうかという点
「まぁアレだな」
モンスターが出現する場所は特に決まっている訳じゃない
“海”という領域であれば何処にでも現れている
その辺りから考えれば、それほど違和感は無いはずだ
「今回は、SeeDに任せた」
ラグナの言葉にスコールが弾かれたように顔を上げる
驚いた様な表情は一瞬で消え、何かを探る様な表情へと変わる
「何を企んでいる?」
「的確な判断だな」
スコールの言葉とキロスの言葉が偶然重なった
原因が分かった以上、モンスターの討伐は早めにするのが当然だ
だが、今回ばかりはそう上手く行かない
キロスの言葉と同時にこっち側の人間が一様に安心した様な表情を見せる
“エスタ”の人間がモンスター退治をするとなれば、ソレはエスタ近海のみでの作戦になる
「まさか、ガルバディア迄行くわけにもいかねぇしな」
他の国の領域までモンスターを追いかける訳には行かない
最もたいして巨大では無い陸上生物が相手ならば、どうにかなるかも知れないが、巨大な海の生き物となると、追いかけるのにそれなりのサイズの船がいる
身を潜めるなんてことは到底無理だ
説明にはおかしな所はない
聞いている限りでは今回エスタが手を出さないのは当然と言える
筋は通っている
だが、違和感を感じる
「ま、今回は高みの見物って奴をさせて貰うさ」
スコールの視線を感じながらも、ラグナは軽い調子で言葉を続ける
今の説明上からすればエスタ軍が出る訳には行かない
だったら個人で、といいたいところだが、今回はそういうわけにはいかない
―――行かないということにしなくちゃならねぇ
「多少の協力はするから、よろしくな」
ラグナはスコールへ向かって明るく言い放った

会議の場から人が退出していく
最後に残ったのは、ラグナとスコールの2人
「………出ないのか?」
沈黙の末、簡潔にスコールが問いかける
「さすがにな、他国の領域まで踏み込んで行く気は無いな」
目の前に散らばった資料を拾い集めながら簡単な返答が帰る
「スコールが誘ってくれるのは嬉しいんだけどな、今回はリスクが高いんだよ」
相変わらずの表情で、相変わらずの言葉
怒鳴りつけそうになった感情を抑え、スコールはラグナの様子を伺う
こういう態度の時は要注意だ
「さすがに海の上だしな、船が無ければどうにもなんねぇ、だからっていって船を出したら一発でばれちまう」
確かに、正直に軍船を使えば直ぐに判明する
だが、それ以外の船だってあるはずだ
「この場合普通の船でってのは自殺行為だぞ」
質問にするよりも早く、ラグナから答えが返る
「嵐の衝撃はともかくモンスターの攻撃に耐えられるとは思えないしな」
今の時点ではモンスターからの直接の被害は出ていない、けれどソレは指摘しても意味がない
情報として耳に入らなかっただけなのかもしれない
それに少なくともこちらから攻撃を仕掛ければ、モンスターも反撃をしてくるはずだ
「だから今回ばかりは仕方ない、ちょっと離れた所で見学でも………」
ちょっと離れた所?
「そーいや、スコール達は直ぐにモンスター退治に出るのか?」
「そのつもりだが………」
「なら、ちょっと待ってろ、渡したいものがあるからな」
スコールが不穏な言葉を問いただす前に、まくし立てるように話すだけ話し、ラグナは走り去っていった
「………結局来るつもりなのか?」
戻ってくる前に出発した方が良さそうだな
苦い顔でスコールも会議室を後にした
 

 
ラグナサイドへ スコールサイドへ