英雄と魔法生物
(戦闘 SideL)
ゆらゆらと揺らめく視界の中に人影が見える
“敵”との間を遮る様に存在する水のカーテン
視線を転じれば、足底を濡らす水の存在
壁の向こう側に透けて見える深い海
水の揺らめきの中で、ゆっくりと人影が動く
人に似た姿
人では無い生き物
部屋を遮る水の中から伸びてくる腕
水に濡れた滑らかな皮膚
………水中の生き物ってことか
ぬめりを帯びた蒼い皮膚、例えるならばまるでカエルの様につるりとした腕
まるで大きく湾曲し三日月を思わせる刃の形状をした剣を右手に、鞘から抜きはなった淡い色を放つ短剣を左手に、ラグナは剣を構える
水を割るようにして全身が現れる
人に似た姿
人ではあり得ないモノ
「人が何をしに来た?」
古い書物に書き残されていた“魔物”が声を発した
身体の左側を炎が掠めていく
“言葉”を知らないラグナは話し合いをすることは出来なかった
足下を浸した水が揺らめき吹き上がる
“証”を示すことが出来ないから説得することは出来なかった
背後に落ちる雷
納得させる為にはまだ時間が掛かる
続けざまに放たれる魔法の数々
―――魔力を秘めし生き物
書かれていた一文が思い浮かぶ、が
こういうのは秘めたとはいわねぇって
文句を呟きながらも、魔法を避け距離を測る
左手の中の短刀が淡く光を放つ
室内にある魔力が動く
“魔物”の元へと凝り固まっていく力の源
力を集め、魔法を放とうとする間の僅かな時間
ラグナは一気に距離を詰め、右手の武器を振るう
刃先は、魔力を集める腕を捕らえる
視界の隅を染める短刀の青い光
腕を捕らえたはずの刃が、皮膚を覆うぬめりに滑る
切り落とされる筈の腕には微かなかすり傷
魔力が爆発する
目の前で発動される魔法
身体へと冷気が襲いかかる
襲い掛かる魔法を受け止めるかの様に左手が伸びる
振り下ろした右手を握り直し腕を引く
短刀の光が強くなる
左手に冷気と一瞬の痛みを感じると同時に、身体が反射的に背後へと飛び退る
ラグナへと向かってきた魔法の氷が霧散する
強い光を放つ短剣と呼応するかの様に、二の腕から溢れ出る淡い光
魔法が消えた事を意識するよりも早く右腕が閃く
ラグナの動作に剣の仕掛けが作動する
振り上げた右腕の先で、三日月の刃が踊る
届く筈の無い刃先はラグナの元を離れ一直線に魔物へと向かう
耳に響く金属音
微かな右手の動きを刃に繋がった鎖が伝える
距離を置き先ほどと違い刃が固定されない分より刃が滑るのか、繰り返される攻撃の割にダメージには繋がらない
「失敗したかもな」
身体に触れる刃先を気にする事無く再び魔力を集める様子に、ラグナは刃を呼び戻し仕掛けを動かし元の剣の状態へと戻した
こっちが不利ってわけでも無いしな
高まっていく魔力に併せ短剣が赤く光る
タイミング次第ってところか
左腕の腕輪が熱を持つ
ラグナはじっと魔物を見つめる
―――魔法が発動する
襲い来る魔法の炎の中へとラグナは身を躍らせた
次のラグナサイドへ そのころのスコール
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