英雄と魔法生物
(収束 SideL)
眼下に見える島が海の中に沈んで行く
長い間水中に存在してた島
遙か遠い昔の取り決めに従い、海上へと姿を現した一つの島
遠い昔何がなされ、何故こういった選択がされたのか
誰かに説明出来るような事は何一つ知らない
知っているのは遠い昔の伝聞
海に沈む島に取り残された生物の話
知っているのは語り継がれた御伽噺
罪を犯し海中へと取り残された人の話
渦を巻き起こしながら、島が海の底へ向かい消えていく
世界のあちこちに現れたモンスターとの関係は
厳密に関わりがあるかどうかも知らない
知ることが出来たのは、古い書物に書かれた記録
モンスターが引き起こす現象とモンスターと共に出現する島の記載
知ることが出来たのは、残された道具の使い方
扉開ける鍵と番人を退ける印と………
海中に沈んだ島の姿は見えない
ラグナは上空を1度旋回し、ゆっくりその場を離れる
ラグナの脳裏に、中で見た光景が思い浮かぶ
水に囲まれ静寂に満ちた部屋
緑の肌をした番人
そして―――
2つの“鍵”をもって閉ざされていた扉が開く
遙か昔閉ざされたきりの扉は、軋んだ音を立てぎこちなく開いていく
―――そして彼等は、解放される時を信じ眠りについた
蒼い色に染まった巨大な空間
四方に配された石の柱
中央に置かれた巨大な機械
そしてその周囲に並べられた夥しい数の箱
微かに空気が震える
島があった筈の場所に吹き上がる巨大な水柱
巻き上げられた海水が雨の様に飛空船に降りかかる
周囲に高波が走っていく
僅かな時間、目を閉じる
あの場所がいつから在ったものかは知らない
ただ知ることが出来たのは遙かな過去と言うこと
辺りを支配するのは静寂
ほんの僅か、ラグナ自身が立てる呼吸音が聞こえてくる
目の前にある巨大な機械には錆が浮き、触れれば砂の様に崩れ落ちた
遠い昔に壊れ、働く事を止めてしまった機械
生命維持機能は既に壊れて、周囲に並ぶのはおびただしい数の棺
「役目は、とうの昔に終えていたようだ」
遠く扉の方から、疲れたような声が聞こえた
水柱が消え、波は走り抜けていった
かろうじて生き残っていた機械は指示した命令を違えることなく実行した
遠い昔に組み込まれていた命令
仕掛けられていた爆破装置
長い時の経過にもそれだけは壊れる事無く残っていた
あの場所がどんな場所だったのか、あの人物が何者だったのか知らない、知りたくもない
――――――――――――
建物の中に残されていた様々なデータは全て見ないふりをしておいてきた
何もかもが吹き飛んで海の中だ
「知らない方が幸せって事も案外多いしな」
ラグナは飛空船を目的地へ向けて移動させた
頭の中を御伽噺が巡った
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