英雄と墓標
(証言 SideS)
「先に言っておくが、自分たちの存在は歓迎されてはいない」
あらかじめゴッパスが言っていた言葉に間違いは無く
話を聞こうと彼等が声をかけた村人は一様に口を噤む
まれに話をする事が出来たとしても、返ってくる言葉は
「私達は何も知らない」
「何も聞いてはいない」
「あの地は危険だ、早く立ち去った方が良い」
そして、本当に何も知らないらしい若者達の言葉だけだ
「この調子じゃ埒があかねぇな」
一軒一軒、家々を回っては追い払われる彼等の後へと続きながら、ゼルが疲れたように呟く
どれほど時間をかけても、得られる情報はまるで無い
だが、本当に何も知らないとは信じることが出来ない
あの場所の事を今まで誰一人として知らずにいたというならまだしも、ここに住む人々はあの場所の事を随分昔から知っていた
こんな状況で、噂話の一つも、推測された作り話の一つも存在しない事は逆に不自然だ
そして、年配の者達は確実に何かを知っているはずだ
態度がそれを告げている
だからこそ、彼等も話を聞き出すまでは引き下がれずにいる
扉に鍵をかける音が響く
長くため息を吐く音が聞こえ、毅然と顔を上げると再び歩き出す
全員から話を聞くまで続けるつもりみたいだな
それほど大きくはない村
この地に建つ家の数も簡単に数えられる程度
次の家の扉へと向かう彼の後を、スコールは一度首を振り、黙ってついて行った
歳月を重ねた木々の温もり
長い歴史を感じさせる色合い
それほど大きくはない家の居間に通され、スコール達はこの村の長と対面している
対面しているとはいっても、あの場所の話を聞き出そうとするゴッパスが一方的に話を続けているだけだ
………今のところは
今まで会ってきた村人達と同じに何も語るつもりがないのならば、わざわざ家の中まで招き入れるような事をするはずがない
きっと、何か話す事があるはずだ
………それがこっちが望んでいる事ではないとしても
あの場所に対して自分たちが知り得たことが、隠すことなくゴッパスの口から流れ出る
相変わらず反応も薄いままに聞き続ける村長の姿
時計の針が微かに時を告げる
そして、家の外から聞こえてくる鐘の音
どこか、聞き覚えのある音
―――?
聞き覚えのある音色?
違う、音色に聞き覚えがあるんじゃない、ただどこか切ないこの響きが………
「………鎮魂音?」
1度エスタで聞いた鎮魂の念を込めたという鐘の響きに似ている
スコールの小さな呟きに村長がかすかな反応を示した
「祈りの言葉を知っているか」
家の中へと招き入れてから、初めて村長が言葉を発する
「祈りの言葉?」
ゴッパスの呟きには目を向ける事無く、スコールへと真っ直ぐに注がれた視線
「いや」
祈りの言葉なんて知らない
スコールの言葉に村長は細く息を吐き出す
「それでは私が知ることを話そう」
真っ直ぐに向けられた視線は尚もスコールを見ていた
スコール達は、家々から少し離れた丘の上に一軒だけ建つ家へと足を運んでいた
村長が語った知ることは多くはない
あの場所が禁忌の場所であること
長い間誰一人近づく者などいなかったこと
あの地の事を知る者がいるとするならば、それはかつてこの家に存在していた、今は亡き主だろうという事
『それでは話を聞くことの出来る者はいないということですね』
そう言ったゴッパスの言葉にゆっくりと語られた言葉は、もう一人その主から話を聞いていたかもしれない存在が居るということ
昔この村を出て行った亡くなった主の唯一の肉親
『あの地の事を耳にすれば、いずれここを訪れるでしょう』
予言めいた言葉を最後に、村長との会談は終わった
「だめだ、やっぱり人の気配は無いぜ」
家の様子を探っていたゼルが肩をすくめてみせる
言われなくても解っている
人の気配どころが生き物の気配を感じられない家
「数日の家に帰ってくれば良いんだが………」
難しいかも知れないな
村を出てから一度も戻らないという住人が本当にここに戻る確率はきわめて少ない、筈だ
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