英雄と墓標
(夢)


 
夢を見た
見るはずのない夢
見てはいけなかった夢
その夢の中に私の姿は無く
その夢の中に私の知る景色は無かった
たわいもない夢
そう、たわいもない夢のはずだった
―――私が知るはずのないその姿を見るまでは
私はそれが何であるのか知らなかった
幾度も繰り返し違う光景を夢に見る
幾度も巡る夢の中
現る違う時間
そして同じ時間
けれど、夢に見る筋書きには何一つ同じ所は無くて………
だから長い間気づくことはなかった
その光景を夢に見るまでは
夜ごと訪れる幾つもの夢の数々
その全てが
―――訪れうる未来の姿

「………そうか」
暗く沈んだ空を見上げて、かの人が呟く
私が夢に見た数々の光景
私が語った物語
その粗方を聞き終えて、かの人が悲しげに目を伏せる
遠く人々のざわめきが聞こえる
運命の歯車が回り始めた
人々の行く末に定められた未来など無い
けれど………
人々の行動の末に訪れる事が定められた未来は、在る
「まだ時間はあります」
毅然と顔を上げて、言う
「そう、残された時間は多くはないけれど、時は確実に」
真っ直ぐな目をして………
「あなたが見た未来には、笑い合うその姿もあったのでしょう?」
柔らかな笑顔に、私は力強く頷く
「ええ、勿論です」
幾つもの光景の中、年老いた私の姿があった
「その未来を実現させれば良い」
そうして、忙しい日々か始まった

幾度も見る夢
私が見る夢の中に、私の姿はない
幾つか見る夢
私が見る夢の中に、私の姿がある
あの時から、進められる事柄の数々
今はまだ遠い未来の話
けれど………
夢に見た光景
もしもの時の為、万全の準備を整えよう
もしも、この地が滅んでしまったときのため
―――それはあってはならない出来事だけど
 

 
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