英雄と墓標
(家 SideL)
小さな音を立てて鍵が開く
二十数年にも渡る長い間、ろくに動いたことのない扉がぎこちなく開く
それでも軋んだ音が聞こえないのは、今は失われた技術のせいだろうか?
そういや、学者達は全く気づきもしなかったんだろうな
―――この地にある建物が見た目と同じではないということに
開け放った扉の中から舞い上がる埃
襲いかかる無数の埃に、ラグナは咳き込みながら慌てて扉を離れる
「あーー、こりゃ仕方ないっていえば仕方無いよな」
長い間“家”としての機能を果たしていなかった建物
ラグナは軽く頭をかいた後、がっくりと肩を落とす
とりあえず、まず必要なのは掃除
見上げた空は細い月の姿
雲の少ない空の中では幾つもの星が瞬いている
「さすがに、今の時間に大掃除ってのはむなしいモノがあるぜ」
そうは思うものの、家の中に降り積もった埃の数々をどうにかしない事には、中に入り休むことも出来ない
まぁ、とりあえず
埃を吸い込まないように、口と鼻を押さえ
中にはいらなけりゃどうしようもないしな
灯り一つともらない家の中へと足を踏み入れた
僅かなタイムラグの後、機械が稼働する
部屋の中にある年代物の機械の数々
長い年月にも壊れることなくそこにあったそれらに感謝しながら、ラグナは手早く大雑把に家の機能を取り戻していく
家の中に届く月明かり
細い月が不思議な程強く輝くおかげで、なかなか照明のスイッチが入らない家の中もそれなりに片づいている
「………まぁ、後は明日で良いか」
少なくとも、今夜寝る位には支障はなくなった
それに寝ている間に事態は多少は改善される
少しばかり耳障りな機械音を耳にしながらラグナは階段を上った
「………おやすみ」
視界の隅に見える幻に小さな声をかける
さあ、全ては明日から
寝具のない堅い寝台の上へと身を横たえる
明日になったら………
そうだ、まずは墓参りをしよう
そうして、それから………
目を閉じるとまもなく、身体から力が抜け睡魔が訪れた
強い光が瞼を刺激する
遠くない場所から聞こえる機械の音
ゆっくりと開いた目に映る見慣れない―――見覚えのある天井の形
ラグナは弾かれた様に、身を起こす
ゆっくりと部屋の中を巡る視線
一瞬、自分がどこにいるのか解らなくなり
ほんの一瞬、自分の時を見失った
「………そうだったな」
幾分早い鼓動を賢明になだめる
朝の光の中に見える室内の様子は、ずっと昔とそれほど変わらない
―――当たり前だ
この家に戻る者は居ない
この場所に手をつける者も居ない
変わらなくて当然
ラグナは立ち上がり、部屋の片隅へと手を伸ばす
ここにあるのは置き去りにされたモノ
ひっそりと目を伏せたラグナの耳に家の外から、声が聞こえた
次のラグナサイドへ その頃のスコール
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