英雄と墓標
(来客 SideL)
「ラグナさんっ!?」
開いた扉の外側で、ゼルが驚いた様な声を上げる
一瞬驚きに目を見張り、すくにこちらを睨みつけるように見るスコールの姿
そして、彼等の雇い主だろうガルバディアの人間
「なんで、あなたがここに………」
ラグナの顔から視線をそらさず苦しげにそう言ったのは、スコールではなくガルバディアの人間だった
「とりあえず入るか?」
驚きをあらわにした三人の姿を目にしながら、ラグナは戸口から距離を置く
「もっとも、二十………何年だ、三十年近くほっといたからな、真っ当なもてなしはできねぇと思うぜ」
「三十年?あんたいったい………」
聞こえてきた声に背を向け、ラグナは家の中へと彼等を誘った
「さすがにひでぇな、まともな水もでねぇぜ」
一晩動いていた機械の電源は切った
今、目の前にあるのは、時を重ねた割には綺麗な姿を保った家の様子
まともな機能を取り戻す前に強制的にシステムの数々を眠りにつかせたおかげか、長い間使われていなかった民家に相応しく、しばらくの時間をおいて爪の先にも満たない細い泥水がこぼれ落ちただけだ
「まぁ、もっとも水が出たところで、どうしようもないけれどよ」
口に入れる事の出来るものなんて、何一つ残ってはいない
残っていたとしても、とてもじゃないが食べることが出来るはずもない
居間には居心地が悪そうに辺りを見回す彼等の姿が在る
責任者であるはずの彼が、ラグナの戻った事に幾分ほっとした様子を見せる
「………それで、エスタの人間であるあなたが何故ここにいるんです?」
すぐに取り繕ったような厳しい表情
………?
どうもガルバディアの役人の割に、当たりが柔らかい
「何故ってな………」
その代わりの様に、突き刺すようなスコールの視線を感じる
まぁ、誰がどんな態度だろうと答えることは一つだけどな
「墓参り」
三人が三様に目を見張る
室内へと巡らされる視線
「誰の………」
「隊長、ここの出身だったんですか!?」
スコールの問いかけは、男の声にかき消された
全然解らなかったぜ
“隊長”と叫んだ男―――ゴッパス
かつての、まだガルバディア軍に在籍していた頃の部下だったらしい
ま、あそこの責任者が知り合いらしいっていうのはそれなりに良い事だよな
「………それで、ここはあんたの家、なのか?」
話が一段落した事を見計らったスコールが、複雑な顔をして問いかけてくる
「そうだな………じいさんの家ってのが正確だな」
ここが“俺”の家っていうのには、賛同できない
「えーと、ラグナさんはここの出身なんですよね?」
「………一応な」
今現在、出身地は?と聞かれたのなら確かにここだと答えるだろう
元々の出身地―――出生地は?と聞かれたならば答えられないけれどな
「隊長、一つはっきりさせたいんですが、この家の今の所有者は誰です?」
しばらく、何かを考え込むようにしていたゴッパスがゆっくりと口を開く
「ああ、所有者、ね」
ここは俺の“家”じゃない、だが所有と言われれば
「俺だな」
ここを譲り受けたのは確かに俺だ
「それで目的は墓参り、でしたよね?」
「ああ、最近あの場所の事が話題になったからな、思い出したんだ」
初めの家族のこと
そして随分訪れていない土地のこと
「その墓参りの相手というのは?」
少し伺うようにして問いかけられる言葉
「………そうだなぁ」
ラグナは視線を空へと向ける
ふと、脳裏を過ぎるのは墓所に眠る人のかつての姿
ぼんやりと思い出される幾人かの姿
ラグナがこの地で祈りを捧げる対象は複数存在する
「答えられないような事なのか?」
硬質なスコールの声に、ラグナは弾かれたように視線を送る
「ああ、いやそういうわけじゃねぇ」
一瞬、過去へと意識が飛びそうになった
「そうだな、まず一人はここのじいさんだな」
そうだ、かつての主人もまた、この地に眠っている
「一人?」
どこか詰問するようなスコールの口調にラグナは苦笑する
「そうだな、スコールにも関係があるよな」
無意識に零れ落ちた言葉は、スコールの耳に届いたのだろうか?
こちらを見る視線が強くなった気がする
「それと、母や兄弟達だ」
俺が生まれた時に持っていた家族
―――それと………
伏せた視界に鮮やかな血の色が浮かぶ
見えるはずの無い、知るはずのない幻影が浮かぶ
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