英雄と墓標
(記憶)
「あなたが知る範囲の事を話して頂けますか?」
この村に滞在し、聞き出すことのできた有益な情報はただ一つ
この家にかつて住んでいた者が多少なりともあの地の―――セントラの施設だというあの場所の事を知るということ
多少なりとも話を知っているはずの村の年寄り達は、一様に口をつぐむ
口の軽い若者達は、何一つ知ることは無い
その中間の世代は、ただ困惑したようにこちらの様子を伺うだけ
この家の最後の住人だという人物は随分前に亡くなっている
今のここの所有者だと言う人物は………
彼が偽りを口にするような人では無いことは知っている
だから、ここが彼の所有―――きっと実家だというのは事実だろう
だが同時に、それほど長くはないかつての付き合いの中からも、彼が案外隠し事が上手いことを知っている
だが、聞き出せるだけの情報を聞いておく事は無駄にはならないはずだ
勿論あの地の事は、情報を聞いた後に綿密に探索する必要がある
………いや、どちらにしろ探索はすることになっていたのだから、状況に変わりはない
「そう言われてもな………」
何かを迷うようだった視線が、不意に強い色を放つ
「………何が聞きたいんだ?」
そう問いかけた彼の視線がSeeDへと向けられていたのは気のせいでは無いだろう
「我々がもっとも知りたいと思うことは一つです」
きっと答える事の出来ない問いだろう
だが、聞かずにはいられない問いかけ
「墓地だ、俺が理解した限りじゃな」
間髪入れずに帰ってきた言葉に、驚き目を見張る
「………ちょっと待て、それじゃあなんで“施設”なんて呼んでんだ?」
自分が思い至るよりも早く、ディーンが疑問を投げかけている
「そりゃ元々は“施設”だからだろ」
軽い口調で答えるが、その表情にはふざけた所は見えない
「………ラグナ」
詳しく話せという言葉に、彼は肩を竦める
「至極簡単な話だ、あそこは確かに施設だった」
組んだ両手が口元へと運ばれる
「それも避難施設―――シェルターって奴だ」
避難施設?
何から身を守る為に造られた施設かは解らないが、それなら古代セントラの技術が残っている可能性は大きい
「残念だが、何も残っちゃいないぜ?」
自分の考えを読んだのだろうか、彼が当たり前の事の様に告げる
「え?だって避難施設なんだろ、緊急の時の何かが残ってる可能性は高いんじゃないか」
「言っただろ、あそこは墓地だって」
そう言って、彼が浮かべたのは冷たい笑み
ディーンが息を飲む音が聞こえる
自分たちがひるんだ中で
「どういう意味だ」
レオンハートが変わらぬ口調で問いかける
「使われたんだよ、本来の目的で」
何故だろう、どこか投げやりに聞こえる口調
「避難施設か?」
「ああ、何から避難したのかなんて聞くなよ?とにかくあの場所は使われた、………そしてその役目を果たせなかった」
凛とした声が耳に響く
果たせなかった役目、それはつまり………
「………死んだのか?」
何故だろう、自分が言葉にするのを躊躇う言葉の数々をレオンハートが口にしていく
時折浮かぶ、ラグナの様子に気づかないとでもいうのだろうか?
「敵の襲撃に耐えられず陥落」
感情の籠もらない平坦な声が告げる
「敵?」
「聞くなよ、聞いたままを言ってるんだ」
ほんの少し柔らかくなる声
感じていた息苦しさが緩和される
「だから、あの地には何も残っちゃいない」
「だから墓地?」
彼がゆっくりと頷く
何故だ?まるで辺りの空気が凍り付いている様だ
理由は解らないが、この雰囲気の発生源は明らかに彼だ
彼が語った事にどんな秘密がある?
こんな気配を浮かべる程の何が?
「随分、詳しいな」
再び口を開いたのはレオンハートだ
「そうだな、実際にはどうだったのかはわからねぇけどな」
伏せられる視線
けどな………
吐息がこぼれる様な呟き
「避難所へと逃げ込んでから、数日か数十日か………実際にはどれだけの月日がたっていたのかは知らなねぇ、とにかくあそこに一部隊がたどり着いた」
息を飲む音が聞こえる
「彼等がどんな光景を見たのかは聞いていない、もしかしたら伝えなかったのかもしれねぇな」
どこからか血の臭いがする
いや、解っている、それは錯覚だ
「彼等は人を探して奥へ進んでいったらしいぜ、だが結局最後の部屋まで………」
彼の言葉が途絶える
思い浮かんだ幻影を振り払う様に、目をつぶり頭を振る
誰も何も言わない
言わなくても、結論は解っている
そして、この話が伝わっているという事は、たぶん………
「………ここは………」
彼の口元になぜか落ち着いた笑みが浮かぶ
「知ってるか、この家は“守人”の家っていうんだぜ?」
彼の言葉に重なり、村の外れから鐘の音が聞こえた
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