英雄と墓標
(破壊 Side?)


 
最後の部屋
そこは一つだけ残ったまともな空間
もちろんここにも闘いの跡は残っているけれど、それは激しいものではない
先ほどまでの部屋とは違って、壁や床に争いの跡はほとんど残らない
なぜならここは………
闘いの必要がなかった場所
ここにいた方は無抵抗のうちに亡くなられた
―――深い眠りについたままに
彼の方が眠りに着いていたという透明な棺は遙か昔、祖先の手によって片づけられた
ここには何一つ残ってはいなかった
他の部屋と同じように
そして、他の部屋と違ってほぼ無傷といって良い状態で………
けれど………
今私が居る部屋の中はその様相を一変している
部屋の奥に現れた機械の数々
そして、部屋の右奥に鎮座した不思議な光沢を放つ金属製の………
かつて見た光景とは一変した室内の様子に、私は足早に歩き出す
複雑に組まれた機械の数々
私には理解できない言葉を浮かばせるその表面
近づくほどに耳を打つ、機械が建てる微かな音
解っては居たけれど、この機械達は今なお生きている
当然の事、当たり前の事
けれど、この事実は隠さなければならない
私は震える手で、持ってきた荷物を探る
なぜ、この部屋にあるこの機械だけが、未だに動いているのか
なぜ、ここにこんな機械が存在するのか
それは誰にも知られてはならない
否、ここがこのような状態にあることこそ知られてはならない
手の震えが止まる
守らなくてはならない
私の中に確固とした意志が生まれる
それが僅かな可能性であっても、排除しなければならない
―――それが、悲しませる出来事だとしても
そう、きっと悲しむ
この地が破壊された事を心の底から悲しむだろう
けれど、何故この地が破壊されなければならなかったのか、理解もまたしてくれるだろう
私はその悲しみが深いことを知っている
けれど………
穏やかな笑顔を思い出す
不安そうな瞳を思い出す
私が守りたい者
私が守らなければならない者
私の愛し子
無意識のうちに私は笑みを浮かべている
そう、愛し子
あの子は私の大切な………
荷物の中から、無骨な火器の数々を取り出す
手に馴染まない武器の数々
不慣れなそれを私は慎重に設置していく
未だ作動している機械の数々を
部屋の隅に設置された見たこともない金属の固まりを
その総てを破壊するために

火の手が上がる
そして、次々と上がる爆発
壊れていく機械達
崩壊の音が響く
部屋の片隅に設置された金属の容れ物が爆破され、衝撃に揺らぐ
―――っ!
ソレが揺らぎぐ傾くのとほぼ同時に身体を貫いていく強い衝撃
わずか時を置いて鼻に着く焼ける臭い
のどの奥から厚い固まりがこみ上げてくる
―――血の味
―――肉の焼ける臭い
よろめいた私の身体を掠める細い一筋の光
私の身体が、部屋の外へと倒れ込む
ああ―――っ
縦横無尽に走る光
破壊されても尚、稼働する機械
耳障りな音を立てながら、アレが姿を消していく
耳に響く滅びの音
私はよろめきながら、出口を目指す
失敗してしまった
―――いいえ、当初の目的はきっと果たした
未だ生き残っていた機械
未だ動いていた防御システム
―――もう半ば壊れていた、けれど一番大切な所だけは残っていた
高熱が通り過ぎた身体からは血がこぼれ落ちない
―――身体が熱い
爆発の衝撃が背後から聞こえる
私の望み通り、あの場所は破壊されるでしょう
けれど………
身体から抜けていく力
次第に霞んでいく視界
ごめんなさい、私はあなたの側に居ることが出来ない
身体が地面へと崩れ落ちる
あなたの幸福な未来を見ることが出来ない
衝撃を受けたはずの身体はもう痛みを感じない
ああ、声が聞こえる
私の大切な息子の声が―――
 

 
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