(空ろ SideS)
何もなかった 口を開けたその施設の中には何も残ってはいなかった いや、ただ瓦礫と化した壁の名残や、こんな密閉された場所にさえも存在する降り積もった埃 無くなった壁や天井から崩れた土砂の数々だけがその場所に残されていた 「これは………」 喜々として中へ入り込んだ学者達の愕然とした声が聞こえる 目の前にあるのは、ただの廃墟 もはや施設とは呼べず遺跡にもなり得ない建物 何もない、ここには何一つ残ってはいない ラグナが言った言葉は……… かろうじて残っていた奥へと続く扉が開けられる 目に映るのは同じような光景 ラグナの言葉は正しい この空ろな廃墟は墓地と呼ぶのに相応しい ………ラグナはこの光景を見たことがあるんだろうか? ふと胸中に浮かんだ疑問 先を急ごうとする学者達を制しながら、スコール達は扉を開け奥へと続く道を歩く きっと、見たことがあるだろう さほど考えることなく浮かぶのは確信 ラグナの言葉 ラグナの態度 ラグナの表情 たぶん、あの違和感はこのことを知っていることを告げていた 残る壁に、焼けた跡が見える 足下を覆う床に、刃の傷が残る 崩れ落ちた天井に残るのは爆破の跡だろうか? 遠い昔、この場所で何があったのか知ることは出来ない だが 「………ひでえな」 すぐ近くを無言で歩いていたゼルの声が聞こえた 何があったのか想像することはできる あちらこちらに見える染み 元の色はなくなっているが、あれは血の跡 遠い過去の出来事だというのに、未だにここには死の影が残っている 競うように先を急いでいた学者達が黙る 彼等の足が重くなる 「………あの村の者達が、何も語らなかった理由がわかる気がするな」 誰かの言葉が辺りに響く 長い間、閉じこめられていた空気が淀んでいる 「だが、最後まで行かなければならない」 誰かが言う言葉が聞こえる 何もないことが解っていても、確認しなければならない これ以上進むべきでは無いと感じても、全て見回らなければならない それが彼等の仕事 それが彼等の役割 幾つもの扉を抜け
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