(墓標)
最後に現れたのは広い部屋 だが、私達が見ることが出来たのは徹底した破壊の跡 部屋の中へと踏み入れた足が、何かを踏み砕く いつもならば、貴重な手がかりを砕いたことに、私は声を上げていただろうが 今は声を上げることも出来ない ここまでの長い道のり、ここまで来れば嫌でも思い知らされる ここには研究の対象となれる様なモノは何一つ残されては居ない 足を踏み込んだ当初なら、セントラの秘密が少しでも解ったかもしれないと、そんな思いも抱いていたが、それも意味の無いこと 部屋の奥に瓦礫の数々が積み上げられている 私は引き寄せられるようにその正面へと足を運ぶ ―――墓標 名前が刻まれている訳でもない それが墓で在ることを示すモノは何もない だが、確かにこれが墓標である事を私は感じている そして、この地の秘密を探ろうと私と同じようにここに詰めかけた彼等も……… 壊れた墓の奥、墓標の前で頭を垂れる 「この地には、私達が知りたいと思うセントラに関するものは何も無い、価値があるやもしれぬのは村人の話くらいなものだ」 私の言葉に、学者達は誰もが同意を示した 「この地はいつ崩れてもおかしくはない、早々に離れるとしよう」 この地の様子を記録していた機械を止める音がする 「………調査は終わりですか?」 政府の責任者として同行したゴッパスが声をかけ近づいてくる 「あなたもここの様子は見たでしょう、この場所を調査したところで新たな発見があるとは思えない」 私は、足早に歩き始める そう、ここは保存状態も悪く、たとえばこの建物の組織を調べるにしても随分と時間がかかることになる、そんな手間をかけるのならば今在る他の遺跡の数々を調べる方がどれほど有益な結果をもたらすことになるか……… 「………それに、この場所はあまりにも危険でしょう、調査の為の機械を入れたらすぐにでも崩壊してしまう」 もっともらしく取り繕った私の言葉に、もっともらしい言葉の援護が重なる 「解りました、それではここはセントラが残した遺産としての価値は無いということで、閉鎖ということでかまいませんね」 告げられた言葉に、私はほんの少し躊躇った “価値がない”という判断が下されるということは、もはやこの地を調査する機会にも恵まれないということ いや、個人的に調査の手を向けることはできるだろう、だがここの場所は個人的にどうにかなるような状態ではない ここで私がその言葉に頷けば、私以外の人間もまたこの地を調査することは出来なくなる 私の足が止まる 「………調査を続けますか?」 背後から聞こえる声に、私はゴッパスを振り返る 「調査の必要はありません、先生もそう思われますよね?」 私が躊躇っていた言葉を若い学者の一人が言葉にする 私は、ゴッパスの表情を目にし気が付いた 「調査の必要はない、この地は閉鎖しよう」 確かにこの場所には何も残っては居ない けれど、綿密に調査すれば判明する事も幾つかあるだろう だが………ここは足を踏み入れてはならない場所 「では、そう報告をします」 誰もがそれを感じ取っていたのだろう、貴重な資料が目に見えて残っている訳でもない現状、誰一人としてその決定に不満を言う者はいなかった |