英雄と墓標
(終焉 SideL)


 
眠りから目覚め、ラグナは窓の外へと目をやる
眼下に広がる草原
ガルバディア政府が設けたキャンプ
そして、セントラの施設への入り口
半ば地中に埋もれ隠されたその場所は、ここからはあっさりと見ることが出来る
こじ開けられた扉の向こうに、深い闇が覗いている
今朝から調査を始めるという事は昨日の内に聞いている
何か言いたげだった村人達の顔が思い浮かぶ
何も言わずに立ち去った彼等が感じていたのは、戸惑いだろうか、不安だろうか?
視線の先で人々が動き出す
中へと入る為の準備
探索する為の道具が揃えられているんだろう、彼等が忙しく動き回っている
彼等は扉の奥に何を感じるだろう
―――スコールは、どう思うだろうな
当然の様な顔で浮かび上がった言葉に、ラグナは自嘲の笑みを浮かべる
特別な事を感じる訳は無いだろう、スコールは何も知らないんだ
血だまりと暗闇
幾度と無く見る昔の夢
現実には見たはずもない光景
ここに来てから幾度と無く夢見る光景
ずっと昔から数えきれぬ程見た夢
知り得た事柄で思い描かずには居られない光景
あの場所に刻まれた過去
あの場所に刻まれた知り得ない記憶
あの場所を支配する気配を感じ取るだろうか?
―――きっとすぐに気が付くだろうな
あの場所に詰まった息苦しいほどの死の気配
そして違えることなく、何が起きたのか推測する事が出来るだろう
―――遙か過去の情景なら
何を感じるだろう、何を思うだろう
遠く見える景色の中で、彼等が扉の中へと消えていく
同じ所を巡り、纏まる事の無い思考
「何を、望んでいるんだろうな」
あの地を調査する学者達に、スコールに
鎮魂の祈りなのか、あの地をそっとしておくことなのか
………それとも、過去を知って貰うことなのか………
扉の中へと入った彼等の姿はすでに見えない
微かに零れていた明かりも見えない
重いため息を吐くと、ラグナは窓から視線を外し階下へと足を運んだ

そろそろ最後の部屋へ辿り着いた頃だろうか?
時計へと目を遣りラグナは思う
やけに時間がゆっくりと過ぎていく
期待しているからだろうか?
―――彼等が出す結論に
不安だからだろうか?
―――これから起きることに
時を刻む音が聞こえる
そして響き渡る鐘の音
祈りを乗せて風が鐘を揺らしていく
自然に零れ落ちる祈りの言葉
突然、静寂を突き破り警告音が辺りへ響き渡る
昔ただ一度だけ聞いたことのある音に、ラグナは弾かれるように立ち上がる
音を立てて全身の血が退いていく
―――スコール
壁の中に埋め込まれたパネルが赤く点滅を繰り返す
「くそっ」
力を込めて叩きつけた壁が崩れる
壁の中に開いた穴から一枚の金属片をつかみ取り、ラグナは施設へ向けて走り出した
頼むから間に合え、無事でいろよ
ラグナの脳裏で、倒れ伏した女性の姿が浮かんで消えた

伝わってくる細かな振動
扉へと現れる光が施設が消滅する事を知らせている
崩壊の地鳴りが聞こえる
中途半端に壊れた機械
中途半端に残ったシステム
動くはずの無い機能が、動いてはならない機能が何かの拍子に動き出している
きっと最終手段―――自己崩壊
「頼むから、止まってくれ」
一時的に止める為の手続きは知っている
その為に必要な物も持っている
ラグナは、金属片を扉へとはめ込む
問題は、それが動くかどうか
縦横に光が走る
扉の中を走り抜けていく光の帯
表示される問いかけ、次々と現れる言葉
崩壊の音が止まる
一度作動した破壊のプログラムを取り消すことは不可能
―――一時停止
扉を押さえた左手から振動が伝わってくる
そう長くは持たない
次第に近づいてくる人の気配
扉に灯っていた光が薄れていく
早く、戻れ
機械の限界に火花が散ったのとほぼ同時に、人影が見えた
 

 
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